怖いものを好きなもので克服
さて最後は、JAHA(動物病院福祉協会)認定の家庭犬しつけインストラクター・矢崎さんのお話です。矢崎さんは、ご自分の愛犬ホピ(ミックス)を連れて、実演を交えての講義となりました。
ホピは、千葉の国道でクルマに跳ねられたところを保護された捨て犬でした。前にどこかで虐待を受けていた形跡もあり、矢崎さんに引き取られてからも、なかなか人に心を許そうとはしません。さらにやはり見るものすべてが怖い。見なれたものでなければ落ちている石も、道を行くクルマも、散歩の途中で見る猫も虫も怖がったそうです。
「まず犬が何を怖がっているかを、ひとつひとつ特定していく。ボディランゲージを観察してそれをリストアップしていきます。そして今度は、かれが何が好きかを探す。かれが思わず恐怖を忘れてしまうほど好きなものは何か? その2つがわかったら、恐怖の対象がかれに怯えを感じさせる前に、好きなものを与える。怖いものが来る→好きなものが来る、怖いもの→好きなもの、怖い→好き、怖い→好きを繰り返すうちに、犬はしだいにそれを克服していきます」(矢崎さん)
矢崎さんは、ホピに大好きなおやつを与えながら会場の雰囲気に慣れさせていきます。最初は舞台に上がっておっかなびっくりだったホピですが、おやつを求めていろいろ動いているうち、舞台や大勢の聴衆にあまり関心を示さなくなってきました。
そこで不審者の登場(村田先生が代役)。徐々にホピに近づいていきます。ホピは最初すごい警戒心を示し、しきりに舞台裏に戻ろうとするポーズを取りはじめました。そこで矢崎さんは、今度はクリッカーを使ってホピの関心を自分に戻します。
カチカチッという音がすると、ホピはそちらに反応。矢崎さんのもとに帰っておやつを待つ。怖い→カチカチッ→好きなもの、怖い→カチカチッ→好きなもの…その繰り返しの中で、ホピはふたたび村田先生に慣れていきました。最後は先生の手からおやつをもらったり、跳び上がっておねだりをしたりして上機嫌。まるで「カチカチッ」さえあればいつもご機嫌といった感じです。
最低半年、長ければ1年
「怖がりの犬は、自分でどんどん怖がるきっかけを見つけて恐怖心をアップさせていってしまう。それを好きなものを与えて平常心に戻してあげることが必要なんですね。そして好きなものを与えるときに、ひとつのお約束の合図をつくる。ぼくはクリッカーを使いますが、GOODの一言でも、よし!でもかまいません。飼い主さんからの合図があれば必ずいいことがある。そう信じることで、犬たちはひとつひとつ恐怖から自分を解放していきます」(矢崎さん)、なるほど。しかしながら矢崎さんによれば、そうした子を普通に生活できるような状態にまで戻すには最低半年、長ければ1年を要するとか。やはり一朝一夕にはいかないものなのですね。
今回の「コンパニオンインストラクターズ・スペシャル」、プロフェッショナル三人三様のやり方やアドバイスが聞けてすっごくためになったのですが、あらためて「犬と向きあう」ことが本当に大きな責任を背負うことなのだと思い知らされてしまいました。
問題行動の対処には、こうすれば解決するという簡単なマニュアルは存在しないのかもしれません。しかし、飼い主が真剣にその子と向きあいさえすれば、必ず成果は上がる。そしてそれは将来にわたって、その子と飼い主との間に、強い絆とハートウォーミングな信頼関係を生むということでしょう。
■臨床獣医学フォーラム05・レポート【2】
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