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問題行動、あなたならどうする?

臨床獣医学フォーラム05のレポート第1回は「問題行動」です。今年はなんと、問題行動の第一人者である尾形庭子先生&村田香織先生に、インストラクターの矢崎潤さんという顔ぶれで、この永遠のテーマに迫ります。

執筆者:坂本 光里

プロフェッショナル三人三様のアドバイス

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今年も会場は大盛況
さる9月16~18日の3日間、東京のホテルニューオータニにて日本臨床獣医学フォーラム05年大会が開かれました。フォーラムには毎年顔を出しているので、なにか目立った動きがあればと思ってピンポイントで取材をしたのですが、なかでも今年は「コンパニオンインストラクターズ・スペシャル」と題された特別講座が目にとまり、これに真っ先に◎印を付けて行ってまいりました。

なにしろ、犬の問題行動治療では有名な大阪の尾形庭子先生(動物行動クリニック・FAU)と神戸の村田香織先生(もみの木動物病院)、それにくわえ人気急上昇中の家庭犬しつけインストラクター・矢崎潤さんが顔を揃えての講演ということですから。このうちの1人だけでも十分貴重な話が聞けるのに、同時に3人揃うなんて、なんてラッキーな組み合わせ! さっそくその模様をお伝えします。

この子はどうして吠えているの?

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問題行動が専門の尾形先生
最初のお話は尾形先生。犬の問題行動治療では定評があります。
尾形先生によれば、犬の問題行動がより顕著になるのは涼しくなる秋だとか。暑い夏が終わって体力が回復し、元気が戻ったところで興奮しやすい環境が整うというわけです。
犬の問題行動には「吠える」「飛びつく」「排泄」「引っ張る」などいろいろありますが、先生はこれらの行動の裏にある状況をよく考えて原因を把握し、それを取り除くというやり方で解決に導く必要性を言われていました。たとえば運動不足であるとか、刺激不足であるとかということですね。

飼い主は、この原因追求をしないで、とにかく「うちの子は他の子たちにくらべて、どこかおかしい。どうすれば治るのだろう」と方法論ばかりを考えてしまう。そうではなく、どうしてこの子が吠えているのかを突きとめ、それに対して対処すればいいわけです。

経験、時間、環境、体力が解決のキーワード

ケーススタディとして登場したのは、コーギーのリュウちゃん。なにかというと吠えるリュウちゃんは、毎朝雨戸を開ける音にも過剰に反応してえんえんと吠え続けます。
なんでリュウちゃんが雨戸の音に反応するのか? それは彼にとって、日常生活に刺激が少なすぎるからかもしれません。なので自分からテンションを上げて、ストレスを発散させているのでしょう。
では、そんな子をとりあえず吠えさせないようにするにはどうすればよいか? 答えは「代替物を与える」ということ。尾形先生は雨戸を開くときに、必ずリュウちゃんにお気に入りのおもちゃをくわえさせてしまうよう指導されました。吠えはじめる一瞬前におもちゃ、これでリュウちゃんはそちらに関心が向き、必死に遊びはじめたのです。

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飼い主とその子に合った方法を探すのが肝心

ここで教訓なのは、問題行動犬とわたしたちは勝手に言っていますが、犬たちにとっては何も問題ではない、きわめて普通の行動であることが多いということです。犬にとっては当たり前の動作でも、都市生活を送る人間たちにとってはそれが迷惑、悩みの種になるからです。だからただ「吠える」のをやめさせたいというだけなら、すこし環境を変えてあげればたちまち治る(正しくは収まる)ことが多い。リュウちゃんのケースは、そんなことを簡潔に教えてくれました。

問題行動について、尾形先生はつぎのようなアドバイスをされていました。
「問題行動の治療は、経験と時間、環境の改善、そしてなにより飼い主さんの理解と実行力(体力)が必要です。一気にすべての問題に決着をつけようとしないで、できることを一歩一歩積み重ねていくことを心がけてください」

ディケアで時間をかけて社会化をはかる

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独自のプログラムについて熱っぽく語る村田先生
続いては、もみの木動物病院の村田先生。パピーパーティの効用を日本で真っ先に証明してみせた先生です。
村田先生のお話は、生まれつき見るものすべてが怖いというある柴犬のケーススタディ。名前はよく聞き取れなかったのでかりにシバちゃんとしておきます(スミマセン)。柴犬にはよく見られる性質ですが、この子はとりわけ見るものすべてが「恐怖の対象」とのこと。
先生の病院に連れてこられても、怯えて椅子の下から出ようとせず、逃げまどうばかりです。不幸なことに、シバちゃんは買われてきたときからこんな状態だったため、飼い主さんはなんとかしようと預かり訓練に出されてしまったそうで、帰ってきたときにはさらに症状が悪化していました。

そこで村田先生は、シバちゃんに対してデイケアという治療プログラムを始められました。最初の1カ月は週に3回病院に来てもらう。朝来て、日中は病院で過ごし、夕方迎えにきた飼い主さんと一緒に帰るというものです。もちろん病院で開かれるパピーパーティにも自動的に出席することになります。こうやって徐々に知らない場所に慣れ、そこで出会う人間に慣れ、病院の犬(村田家のワンちゃんたち)に慣らしていって耐性をつくろうというわけですね。

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預かり訓練が逆効果になったシバちゃん

このデイケアは3カ月間続けられたそうで、2カ月目は週2回、3カ月目は週1回というように日数を減らしていきました。するとどうでしょう? あんなに吠えてばかりいたシバちゃんが、見違えるようにおとなしくなり、村田家のワンちゃんたちと会えると思うとうれしくて躍り上がるほどになりました。パピーパーティに出ても、椅子の下から出ようとさえしなかったシバちゃんが、みずから他の子たちに「遊ぼうよ~」とモーションをかけています。なんだか心あたたまるドキュメンタリー映画を見せられた気分で、会場全体がちょっとしたカタルシスに浸ってしまいました。

子犬のうちにやるのがチャンス

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3カ月のデイケアで改善したがまだ怖いものはある

しかしながら、飼い主さんの立場に立って考えればこれはなかなか大変なこと。週1回ならともかく週3回のデイケアを1カ月続けてくださいと言われても、ハイそうですかと即決はできません。犬を飼うというのはかくも覚悟のいるものかと、あらためて考えさせられてしまいました。
「シバちゃんも頑張りましたが、いちばん頑張ったのは飼い主さんだと思います」とは村田先生の弁。先生はまた「飼い主にできることの範囲を超えるようなオーダー(指導)は出さないことが大事」と言われてましたが、この子はこの時点で治療を受けられたから幸運だったので、飼い主さんがもし指導に理解を示さずそのまま飼い続けたとしたらどうなっていたでしょう? 何を見ても怖がり、何に対しても吠えるような成犬になる、そうすると飼い主さんにはその子と暮らすことをストレスに感じるようになってくるはず。そしてその先には…。ほんとに犬を飼うって、大きな覚悟のいることなんですね。

-->>続いて矢崎さんの登場!


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