大きな身体に似合わず意外に粗食
マレンマについて少しふれておきますと、見た目にはゴールデンのおよそ1.2~1.3倍といった感じの大きさ。シンディ&キャンディはメスですから、オスのマレンマはもっと迫力があるのでしょう。シンディは42キロ、キャンディは36キロだそうですから個体差もあるようです。
外見上の特徴は、まずがっしりとした頭部。白クマのように頑丈です。喉元はタポタポとたるんでいます(触ると気持ちいい~)が、これはオオカミに咬まれても傷つきにくいためで、体毛が白いのもオオカミとの見分けがつきやすいようにそうなったのだとか。犬はその与えられた仕事、使命によって進化するということでしょうか。不思議なものです。
お顔は鼻が大きく目は小さい。目はきれいなアーモンドアイで、その奥には「命令は必要ない、自分で考える」とでも言いたげな知性が宿っていると見ました。白い体毛は、見た目よりも硬くざらざらした手触りで毛玉にはなりにくい感じ。朝倉さんによれば、ゴールデンにくらべて抜け毛は少なく、2~3週に一度のシャンプーと日々のブラッシングでOKとのこと。外で暮らす牧羊犬ですから皮膚は丈夫ですが、お耳のケアはきちんとしないと外耳炎になりやすいそうです。
果敢にもオオカミとたたかってきた身体は頑丈で、歩くときしっぽがピンと伸びるのが特徴。険しい道でも大股でどんどん駆け登れる犬ですから、当然そうとうの運動量が必要で、朝倉さんは朝夕1時間ずつの散歩にくわえ、休日などには大きな公園やドッグランに連れていって好きなだけ走らせるようにしているそうです。
取材は朝倉さんの勤めている「Perrods」のお店の前で行ったのですが、ときおりやって来る他のワンちゃんとかに反応する動きを見ても、その俊敏さ、しなやかな力強さはハッキリとわかりました。
ところがそんな身体つきに似合わず、意外に少食。朝倉さんは、「ドライフードと缶詰、それにおから、鶏肉が好きなのでトッピングしてあげています」と、言われていました。もともと、パンと水または牛乳で育てられていた牧羊犬ですから、そうした粗食で元気に生き続けていける身体にできているということなのでしょう。
命令は必要ない、自分で考える
もうひとつ、観察していて思ったのは、背後から来る人や帽子などをかぶって顔の見えにくい人には過剰に反応し、警戒心を露わにするということ。
「家でも、ちょっとした物音も聞き逃さずチェックして報告に来ます。まあマレンマのいる家に入る泥棒もいないとは思いますけどね(笑)」(朝倉さん)
泥棒に入った家にこんな大きな番犬が2頭もいたら、どんなにビックリすることでしょうね。
しかしながら、ここまでデリケートでしかも警戒心が強いと、都会で一緒に暮らすにはやはり人や他の動物に馴れさせる必要があるでしょうし、ケージの訓練なども不可欠。飼い主自身がしっかりと犬種の特性を頭に入れたうえで、幼犬期からしつけていく必要があるようです。
自立心の強いマレンマは、理にかなっていない命令には服従しないため、意味もなく訓練を入れようとするトレーナーの言うことなど聞かない。「逆にきちんと理由を理解させると、驚くほど従順なんですよ」(朝倉さん)とのことでした。
それにしても、お店の前で取材をしている間じゅう、ふたりともソワソワしてしじゅう自分たちのクルマばかりを気にしています。何が気がかりなんですかとお聞きしたところ、「クルマに乗って帰ることばかり考えてるんですよ。店に入ると少しは落ち着くんですけど…。ほんとに家が大好きで、守るべきは家と家族と考えているようです。旅行に行っても考えるのは帰ることだけみたいです(笑)」(朝倉さん)
はっきり言って、都会で飼いやすい犬かといえば答えは「NO」のマレンマ。だけど、そんなマレンマだからこそかわいい、ペット化されていないところがいいという熱烈なファンもいることもたしか。自分だけになつき、他の人には心を許さない。そんなマレンマの魅力がちょっぴりだけど理解できた取材でした。
■Perrods(ペロッズ)
世田谷区玉川田園調布1-9-1-101
TEL:03(3722)7785
11:00~19:00 木曜日、祝日定休
■「Dachs&Maremma Y.S.A. DOG GYM」
●これまでシリーズに登場した犬たちです↓
“ロシアの貴婦人”という名がピッタリの優雅なボルゾイ
手がかかるけどかわいいケアーンテリア
世界最古のエジプト犬、バセンジー
スコットランドが故郷の牧羊犬、ビアデッドコリー