4年にわたる徹底したリサーチにより、説得力のある作品に
セバスティアン・コッホが演じるドライマン |
大量の文献を読み、当時の東ドイツを知る人々、元シュタージ職員、その犠牲者に実際に会って何時間もインタビューする。その中で多くの矛盾する話も聞いたけれど、最終的にはこの時代の一つのまとまったイメージ、この時代が抱えていた問題をはっきりとつかむことができたそうです。また出演者やスタッフの中にも多くの旧東ドイツ出身者がいて、彼らの個人的経験はこの映画に多大な真実味を与えたと言います。
この映画は実在する人間の話ではありません。多くの実話に基づいて作られたフィクションです。そのため実際に旧東ドイツを知る人の中には、「この映画で描かれていることは間違っている」と言う人がいるのも事実です。東ドイツの独裁体制はもっと酷く厳しいものだった、人間らしく変化していったシュタージ職員などいない、と。
確かにそのような変化をしたシュタージ職員の記録は知られていません。しかし例えば、ヴィースラーを演じている旧東ドイツ生まれのウルリッヒ・ミューエ(自身、シュタージに監視されていた経験を持つ)は、「そのような人間的な行為は実は想像以上に蔓延していたのではないか」と言っています。また同じく東ドイツ出身の有名シンガーソングライターで、反体制的な詩の内容を理由に活動を11年間禁じられ、その後東ドイツ市民権を剥奪されたヴォルフ・ビアマンは次のように述べています。
「そのような細かいことがこの映画の核なのではない。この作品が伝える当時の東ドイツを支配していた空気は本物。これほどまでに真実味のあるストーリーを、西で育った新人監督が作り上げたことに、ただただ驚くばかり。彼は、人間の中に存在する善と悪が、どれほど途方もなく複雑に交じり合いもつれ合うものであるかということを、私たちに教えてくれる。」
またドイツの公的機関である「連邦政治教育センター」は、「歴史的事実とは異なる部分もあるが、当時の監視組織が振りかざしていた権力と、内部の倫理的な葛藤を実によく描いている」として、授業の教材として使用することを薦めています。
「歴史的なディテールに埋もれることなく、事実以上に信憑性を持ったドラマを語ることを目指していた」とは監督自身の言葉。その試みは成功し、各方面から絶賛を浴びています。
若手監督による最初の長編映画
ドライマンのアパートの屋根裏に密かに作られた監視室 |
1973年ケルンに生まれた監督はニューヨーク、ベルリン他、様々な地で育ちます。オックスフォード大学で政治学、哲学、経済を学んだ後、1996年、ミュンヘン映像映画大学(HFF)に入学。在学中に制作した『Dobermann』他、いくつかの短編映画が評価され、『善き人のためのソナタ』は大学の卒業修了作品として制作。これほどまでの成功を収め、本人はもとより大学側も大喜びしています。
『善き人のためのソナタ』には、ウルリッヒ・ミューエを始め、多くの一流俳優が出演しています。新人監督のデビュー作品で、なぜこのような豪華キャストが実現したか? それは彼らがドナースマルクの完成度の高い脚本に惹きつけられ、少ないギャラで出演を引き受けたから。「キャスト全員に払った出演料の合計は、おそらくミューエやコッホらが普通なら一人で稼ぐくらいの金額だろう」と監督は言っています。
この今話題のガイドも自信を持ってお勧めするドイツ映画、ぜひ多くの方に見ていただきたいと思います。見終わった後、哀しさと人間の温かさと歴史の重みが心に深く残る素晴らしい作品です。上映スケジュール、映画の詳細情報(出演者、これまでに獲得した賞など)は、次のページで!