ペットは法律上は物です。物を失ったことによる慰謝料はよほどの場合でないと認められません。しかし、ペットは家族の一員です。慰謝料はもっと高額で良いはずです。 |
ペットを飼う者の責任
民法718条によれば、ペットの飼い主は、動物の占有者又は所有者として、ペットが他人に加えた損害につき、原則として損害賠償責任を負わされます。例外として、動物の種類及び性質にしたがい、相当の注意を払って保管していたときにかぎり、その責任を免れます。本ケースでは、大型犬の飼い主は、大型犬を鎖につなごうとした際に、あやまって手を離していますし、また門も開けっ放しだったということですから、相当の注意を払ったとはいえません。したがって、大型犬の飼い主は、損害賠償責任を負わされます。
慰謝料は請求できるか?
では、子犬の飼い主は、どのような損害賠償を請求できるでしょうか。まず、獣医での治療にかかった費用を請求することができます。次に、子犬の購入代金、子犬の火葬代金を請求できます。では、愛犬を咬み殺されたことに対する慰謝料はどの程度請求できるのでしょうか?古い判例では、品評会で賞をとった名犬の交通事故死について2万円の慰謝料を認めたもの(昭和40年11月26日、東京地裁の判決)、犬の負傷について1万5000円を認めたもの(昭和44年3月1日、東京地裁の判決)、猫が犬に咬み殺された件について、飼い主夫婦にそれぞれ1万円の慰謝料を認めたもの(昭和36年2月1日)などがありますが、いずれもごく少額しか慰謝料が認められていません。これは、かつては、ペットの被害は単なる「物損」と考えられていたためでしょう。
しかし、最近では、ペットは家族の一員であるという考え方が主流となり、とりわけ子どものいない夫婦にとっては、ペットはわが子と同様とすらいえます。そのため、最近の裁判例では、ペットの被害による慰謝料もやや増額傾向にあります。たとえば、本ケースとほぼ同様の事例で、咬み殺された愛犬そのものの損害賠償額を5万円(購入価格の3分の1)と判断しながら、飼い主の慰謝料を30万円、つまり直接の損害額の6倍と判断した判決が言い渡されています(平成18年3月15日、名古屋地裁の判決)。至極当然の流れだといえるでしょう。