裁判所は、こういう違法な目的の契約には一切手を貸さないのです。クリーンハンズの原則といいます。 |
口約束の場合
まず、マンションをあげる、というのは贈与の約束ですが、単なる口約束であった場合には、A男はその約束を後で撤回することができます。というのも、民法550条には、「書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。」と書いてあるからです。したがって、A男が、「そんな約束は撤回する」とB子に言ったら、それでおしまいなのです。B子はA男に勝訴することはできません。紙に書いていたら?
では、A男がB子に対し、「マンションをあげる」と念書を差し入れていたらどうでしょうか?しっかり者のB子が、いざという時に備えて、書面化していた場合です。この場合は、そもそもマンションの贈与契約の有効性が問題になります。というのも、A男は、ベッドに誘うためにB子に「マンションをあげる」と言い、B子は「マンションをくれるなら」と思って体を許しているわけで、これはれっきとした売春だからです。民法90条では、「公の秩序または善良の風俗に反する事項を目的とする法律行為は、無効とする」と定めています。したがって、売春目的でのマンションの贈与契約は、そもそも無効になるというわけです。だから、やはりB子はA男に勝訴することはできません。
逆に女性が男性をまんまとだますには?
「マンションをあげる」と嘘をつき、女をだましてもてあそぶ男なんてとんでもない!そんなやつが法律に守られるなんてひどい話だ!と思う方もいるでしょう。では、こういうとき、B子はどうすれば良かったのでしょうか?答えはこうです。B子は、A男とラブホテルに行く前に、マンションをもらうべきだったのです。マンションをもらうといっても、鍵をもらうだけではダメです。きちんと登記簿上の所有者の名義を移す必要があります。そして、マンションの名義を移してもらったら、A男に言ってやりましょう。
「マンションどうもありがとう。でも、あなたとは寝ませんから。」
A男は、当然、「約束が違うじゃないか。俺の女にならないならマンションを返せ!」と言うでしょう。ですが、仮にA男が、B子を訴えたとしても、A男は敗訴します。民法708条には、「不法な原因のために給付をした者は、その給付をしたものの返還を請求することができない」と定めています。つまり、売春という違法な目的のために、マンションをあげたA男は、もはや約束を破られたからといって、マンションの返還を請求できないということです。