ちなみに、このケースはレアケースです。不倫をした女性はよほどのことがないと保護されないと認識しておくべきでしょう。 |
ひどい男性であることは間違いないけれども・・・。
事例を読む限り、A氏がひどい男であることは明らかで、被害にあった女性が慰謝料請求できるのは当然だと思えるかもしれません。しかし、ことはそんなに簡単ではありません。というのも、この女性はA氏と不倫をしているからです。日本の法律では、不倫は一夫一婦制に反する違法な行為であるとされます。ですから、不倫という違法行為をした女性が、それにより精神的苦痛を受けたからといって、その慰謝料を請求できるかどうかについては、別途検討が必要です。不倫だと慰謝料は請求できない??
一般論を申し上げると、不倫をした女性からの慰謝料請求は認められないのが原則です。自ら違法な行為をしているものが、その違法な行為をしたことによって、損害をこうむっても、その損害を請求することは許されないと考えるのです。でも、この事例で、女性からの慰謝料請求を認めないことが果たして常に正義といえるでしょうか。A氏は、女性がまだ19歳で若くうぶなのを良いことに、妻と離婚するつもりだとウソをついて、女性をだまし、自己の性的欲求を満たすため、もてあそびました。他方、女性は、A氏が自分と結婚してくれると信じ、真剣に交際していました。女性の行為は、A氏が妻と離婚することを期待していたという点で、反倫理的ではありますが、著しく反倫理的であるA氏の行為とは比較になりません。このような場合に、女性からの慰謝料請求を認めなければ、ふとどきもののA氏を保護する結果となり、かえって正義に反します。
最高裁判所の判決!
昭和44年9月26日、最高裁判所は、この事例と似たケースで、不倫をした女性から男性への慰謝料請求を認めました。その判決の要旨は以下のとおりです。女性が、男性に妻のあることを知りながら情交関係を結んだとしても、情交の動機が主として男性の詐言を信じたことに原因している場合で、男性側の情交関係を結んだ動機、詐言の内容程度およびその内容についての女性の認識等諸般の事情を斟酌し、女性側における動機に内在する不法の程度に比し、男性側における違法性が著しく大きいものと評価できるときには、貞操等の侵害を理由とする女性の男性に対する慰謝料請求は、許される。
男のほうが明らかに悪いときは、慰謝料を請求できるというわけです。
なお、この裁判で認められた慰謝料は60万円でした。現在は当時と貨幣価値が若干異なるので、もう少し上乗せされる可能性もあるでしょう。