植林してもダメだった山に、緑が‥!
「こうして作った粘土団子を、わたしたちは今、栃木県・足尾の荒廃した山に播く緑化活動に参加しています」(渋谷さん)足尾といえば、日本最初の公害の地として名高い、足尾銅山跡地のある町。19世紀末から閉山の1973年まで、精錬による亜硫酸ガスの噴出により、周囲の山々は草木も生えぬはげ山となり、表土は流出、垂れ流された鉱毒が下流域の農村に甚大な被害を与えた「足尾鉱毒事件」は有名です。
度重なる植林にも関わらず、足尾の緑化ははかばかしい成果をあげていませんでした。ところが、粘土団子を直播きしたところ、水も肥料もやらないのに、固いやせ土からさまざまな種が芽を出し、めざましい成長を見せているというではありませんか! すごいぜ粘土団子!
砂漠を緑に変える粘土団子
多大なコストと人力を費やして植林し、懸命に潅水を続けても、苗木が定着しない砂漠にも、粘土団子は威力を発揮します。苗よりも、種からその地に根付いた植物は強いのです。粘土に包まれた種は、鳥や虫、乾燥から守られ、じっと発芽の機会を待ちます。多種類の種のどれか砂漠に適応できたものが発芽すると、地下深く根を伸ばし、地表の乾燥にも関わらず、たくましく成長します。やがておのおのの植物が葉を茂らせ、ある程度の面積が地表を覆うと、空気中に水蒸気が発生し、雲を呼ぶ。雲は雨となり、今度はもともと砂漠に眠っていたさまざまな種が目をさます――これは広大な砂漠を少ない人力とコストで緑化する、革命的な手法であるとも言われています。
粘土団子の父・福岡正信さん
粘土団子は、”自然農”の提唱者・福岡正信さん(93歳)の発案によるもので、福岡さんの著書『わら一本の革命』『無 自然農法』(春秋社)などによって知られています。同書は各国語に翻訳され、福岡さんと粘土団子の信奉者は、いまや世界に広がっているのです。ギリシアのマニキスさんもその一人。粘土団子は、「耕さず、草も取らず、肥料も与えない」自然農の考え方を体現したもので、福岡さんの、自然の力を信じ、人間の過剰な欲望を否定する思想が基になっています。世界に広がる粘土団子
以前は、福岡さんのお弟子さんである本間(旧姓)裕子さんが、日本全国から種を募り、タンザニアやインドなど、砂漠化の進行する世界各地で粘土団子にして播いてきました。その成果は各国で認められていたのですが、このところ、種をめぐる法律が複雑になったこと、また、緑化のための種も、できることならその国のものを使った方がいいという考え方から、現在は基本的に種を募ることはしていないそうです。粘土団子で身の回りに緑を!