「やられたね」と言う。
「どういうこと?」
「計画倒産でしょ」
「じゃあ、給料は?」
「もらえっこないわよ」
「そんな…」
「最後はただ働きをしたってことだわよ」
悔しかったが、どうにもしようがない。友人は
「テレクラの時にも一度あったのよ。そのときも私、20万くらいやられたわ。しかたない。他に見つけようよ、いくらでもあるしさ」
と、意外とさばさばしている。
幻のお金
しかし、A弓は「働いたのに、その収入が入ってこない」ということが許せない。幻の30万円はどこにいったのか。それまでの収入はすでにいろいろな用途で使いきっていた。間違いなく振り込みがあるものと思っていたので、見込んでカードで買っていたブランド品の支払いをどうしたらいいのか。夫に内緒で消費者金融から金を借りてなんとかしたが、その支払いのために結局また、“サクラ”のバイトをすることになった。なんとか支払いを終えて、A弓は“サクラ”のバイトをやめた。
「虚構の世界で人をだますようなことをしていることが虚しくなったから」
そのうえ、メールでいやがらせや脅迫まがいのことを書かれると気にすまいと思っても、やはり傷つくものだ。
「人間のいやなところばかり見たようで、人間不信になったみたい」
そんな気持ちになってしまったことを考えると、はたして本当に割りのいい仕事だったのか、A弓にはわからなくなった。
その後もA弓のもとには、「効率のいい、高額なバイトをしませんか」という手紙やメールが舞い込んでくる。サクラの仕事をする前に銀行口座や住所氏名などを伝えてあるのだ。そのリストが出回っているのだろう。メールはアドレスを変えたが、郵便物が届く度に不愉快な思いをしているA弓であった。