
いくつになっても性欲があるのは不思議なことでもなんでもない。いくつになってもおいしいものを食べたいというのと同じこと。食欲、睡眠欲と比べて性欲はなおざりにされがちだが、自分自身の性欲と向き合うことに、年齢による制限などないはずだ。
もともとセックスに興味がなかった
「私は若いころ、性欲を意識したこともなかったし、結婚してからは子育てで忙しく、夫に求められれば『体を貸す』ような気分でいました。正直言って、セックスが好きではなかったんです」
恥ずかしそうにそう言ったのは、サトコさん(63歳)だ。55歳のときに3歳年上の夫が病死した。28年間の結婚生活だった。当時、息子はすでに独立しており、娘は自宅から職場に通っていた。
「その娘も結婚して家を出て行きました。親子4人、あんなに狭いと思っていたマンションが広く感じられた。一方で生まれて初めてものすごく解放感を覚えました。夫はけっこう横暴なところがあって、私が何か言うと『おまえの意見なんか聞いてない』と抑えつけられていました。子どもの大学進学についても、息子が文学部に行きたいと言ったら『男が文学なんかやって何になる』と言っていたし、理系の娘には『女が理系に進んでも役には立たない』なんてひどいことを言っていた」
それでも子どもたちは希望の大学へ進んだ。サトコさんが必死で夫を説得したのだ。それでも埒が明かなかったので、子どもたちにはさっさと入学手続きをさせてしまった。夫はずっと怒っていたが、入学を取り消させるようなことはなかった。
夫の死後、身も心も解放されて
「おまえはいつもオレに逆らうと言っていましたね。だから決していい夫婦ではなかった。そんなものだと私が諦めていただけ。だから亡くなってからは、いきなり身も心も解放された。私は何をしてもいいんだと思いました」
パートの仕事は続けたが、夫にお金の無駄だと反対されて諦めていた趣味のスクールやスポーツジムなどを見学に行き、すぐに通うようになった。学生時代の友人とも再会、定期的に食事会などを開いている。
「お酒はあまり飲めないんですが、職場の飲み会などにも顔を出すようにしました。だっていろいろな人と話すのが楽しくてしかたがなかったんです。周りからは『ダンナさんが亡くなってから明るくなったね』と言われました。しかたないですよね」
いろいろな人と知り合い、人脈も広がった。楽しいことがあればすぐに足を向けてみた。
セフレと割り切って
そんな中、習い始めた英会話のグループレッスンで、ある男性と知り合った。3歳年下の会社員だ。帰りに時々居酒屋に寄ったりするうちに親しくなっていった。
「あるとき、ホテルに誘われたんですよ。私、笑い出しちゃったんです。今さら私を女として見てくれる人がいるということに。そう言ったら彼は『僕は本当にあなたが好きなんだ』と言ってくれて。うれしかったけど、私は恋愛をするつもりはなかった。だから『セフレという関係はどう?』と言ってみたんです」
勇気が必要な一言だった。だが、夫がいなくなってから、「言いたいことをきちんと言うのは大事なことだ」と思うようになっていた。
相手は既婚だし、恋愛感情に翻弄(ほんろう)されるのは嫌だった。恋愛より自分の生活を大事にしたい。だから友達としてつきあいながら、時々「性欲を満たす」時間があればいいと彼女は思っていた。率直にそう言ったら、彼は笑い出したという。
「確かにそうだね、と。僕もほしいのは女性との友情かもしれない。僕自身も妻には拒否されている身だから、時々性欲を満たしたい。互いの欲が一致したときだけそういう関係をもとう」
彼はそう言い、きわめてドライなセックス関係が成立している。とはいえ、友情も愛情もある。ただ、「恋人ではない」し、ましてや「愛人」でもない。
何にもとらわれない関係
「気が合うから、そのつもりで会っても結局、ベッドで話し込んで時間になってしまうこともあります。週に1回くらいは連絡をとりあいますが、それは友達としての安否確認みたいなもの。食事をするだけのこともある。何にもとらわれない関係を運良くつくれたような気がします」
彼とそんな関係になって2年がたつ。恋しいとか独占したいとか、そんな気持ちはいっさい生まれてこないとサトコさんは言う。
「いい小説を読み終わったとき、彼にも読んでもらいたいなと思うことはあります。でもそれって女友達にも同じように思うので、彼の存在は私にとって、本当にいい男友達なんだと思う」
セックスしたからといって恋愛しているわけではない。もちろん、誰にも言えないし声高に話すことでもないけれど、自分たちのような関係があってもいいのではないか。サトコさんはそう言う。
「もちろん彼の妻に知られたらまずいけど、そこは彼にしっかりしてもらうしかない。見られて困るようなメッセージなどはいっさい送っていませんけどね」
他人には分かってもらえない関係だと思うし、妻を傷つける気などまったくないから、それだけは気を付けてと彼に話しているそうだ。







