「予定利率2.25%の一時払い終身保険を勧められた」という55歳のS美さん。保険代理店で働く知人から紹介されたそうです。
S美さんは、老後資金用に確保しているお金の一部を、個人向け国債の「固定5年」を購入しようと考えていました。2026年8月募集分の固定5年の金利は「年2.06%」です。
「予定利率2.25%なら、個人向け国債より金利が高いから、こちらのほうがお得なのでは?」そう考えたS美さんですが、予定利率2.25%と個人向け国債の金利年2.06%は、そもそも同じ意味の数字ではありません。今回は、一時払い終身保険の予定利率とは何なのか。また、個人向け国債と比べた場合、S美さんにとってお得なのはどちらなのでしょうか。

一時払い終身保険と個人向け国債は、そもそもの仕組みが違う
まずは、それぞれの商品をよく理解しましょう。
●一時払い終身保険の「予定利率」とは?
一時払い終身保険は、保険料を一括で払い込み、生涯の死亡・高度障害保障を確保する終身保険です。
ここで出てくるのが「予定利率」です。予定利率とは、生命保険会社が保険料を計算するときに、将来どの程度の運用収益を見込めるかを示す利率です。生命保険会社は、契約者から受け取った保険料を運用します。その運用によって得られる収益をあらかじめ見込んでいるため、その分を保険料の計算に反映させています。
そのため、予定利率が高くなると、一般的には同じ保障を得るための保険料が低くなったり、同じ保険料なら解約返戻金などの返戻率が高くなったりします。
ここで注意したいのは、予定利率2.25%は、預けたお金が毎年2.25%ずつ増える、という意味ではないことです。銀行の預金金利や国債の利率とは、意味が大きく異なるのです。予定利率は、保険料計算に用いられる基準であり、実際の返戻金がこの利率で増えるわけではないのです。
S美さん(55歳)が勧められた一時払い終身保険の例では、約280万円を払い込んだ場合、解約返戻金は、以下のとおりです。
・1年後:約273万円(97.5%)
・3年後:約282万円(100.7%)
・5年後:約291万円(104.1%)
・10年後:約316万円(112.9%)
・15年後:約343万円(122.5%)
・20年後:約371万円(132.6%)
となっています。注目すべきは、契約直後から3年未満で解約すると、払込保険料を下回るということです。また、この保険には解約返戻金に加えて、契約を続けている間は約500万円の死亡・高度障害保障がついてきます。
個人向け国債との比較
一方、個人向け国債の固定5年は、2026年8月時点で年2.06%です。
約280万円を5年間保有した場合の利息を計算してみましょう。個人向け国債の利息は、実際は半年ごとに受け取りますのでその総額です。
・280万円×2.06%×5年=28万8400円(税引き前)
税引き後(20.315%の税金を差し引き)では約22万9000円となります。5年後満期時には元本と利息を合わせて約302万9000円を受け取ります。
一時払い終身保険の例では、5年後の解約返戻金は約291万円。
5年後の受取額だけを比較すると、個人向け国債のほうが約12万円多くなります。ただし、これは「国債のほうが必ずお得」という意味ではありません。一時払い終身保険には、国債にはない死亡・高度障害保障があるからです。
50代なら「途中で使う可能性」も考えたい
一時払い終身保険で注意したいのが、途中で解約する場合です。今回の例では3年後には払込保険料を上回っていますが、契約直後から3年未満の時期に解約すると、解約返戻金が払込保険料を下回ります。
50代なら、老後生活に向け、住宅のリフォームや車の買い替え、親の介護費用など、まとまったお金が必要になる可能性があります。一時払い終身保険に支払うお金は、そのような費用とは無関係に、長期間手を付けずにいられるお金である必要があります。
一方、個人向け国債は発行後1年を経過すれば中途換金できます。何年使わないお金なのか、途中で使う可能性があるのか。ここは、商品を選ぶうえで最も重要なポイントです。
「死亡保障」が必要かも考える
もう1つ確認したいのが、死亡保障です。一時払い終身保険には、資金を準備しながら死亡・高度障害保障を確保できるという特徴があります。その保障を「必要」と考える人にとって、この保障の価値は大きいものです。
しかし、すでに十分な死亡保障がある、そもそも死亡保障は不要で「老後資金をできるだけ安定して運用したい」という人なら、保障機能のない個人向け国債のほうがシンプルです。子どもが成人し、配偶者にも経済的な自立がある場合、死亡保障よりも資金の流動性を優先するほうが現実的かもしれません。
手元に受け取るお金だけでなく「役割」で考える
S美さんは「なるべく多くお金を受け取りたい」「どちらがお得なのか」という視点で考えていました。しかし、お金の預け先を決めるときは、手元にいくら戻ってくるかだけでなく、そのお金にどんな役割を持たせるのかが重要です。そのためまず確認すべきは、この280万円はいつ使う予定なのか、ということです。
1年以内に使う可能性があるお金は、普通預金など、いつでも引き出せる場所に置いておくのが基本です。少なくとも1年以上は使わず、必要になったときには利子の一部が差し引かれても中途換金したいお金なら、個人向け国債が選択肢になります。個人向け国債は、発行から1年経過後であれば中途換金できます。ただし、中途換金時には、原則として直前2回分の各利子相当額が差し引かれます。
一方、すぐに使う予定がない余剰資金で、10年以上預けておいても問題ないお金なら、保障もついてくる一時払い終身保険を検討する価値があります。
結局のところ、「予定利率が高いから」「金利が高いから」だけでは判断できません。自分の人生設計に照らして、このお金の役割を明確にすること。それが、老後のお金を守る第一歩になるでしょう。







