年金が少なく、老後に漠然とした経済的不安があります
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は60代前半、女性会社員の方です。現在、70歳まで働き、公的年金も70歳からの繰り下げ受給を考えています。それでも、想定どおりにそこまで働けるか、不安も感じています。また、将来、年金だけで生活ができるか……。医療費や介護費、施設の入所費が発生したら、老後資金が不足しないか……。ファイナンシャル・プランナーの井戸美枝さんがアドバイスします。

■相談者
仮名さん
女性/会社員/60代前半
関東/持ち家
■家族構成
単身世帯(子どもは独立)
■相談内容
年金が少ないため、老後の漠然とした経済的不安があります。年金は繰り下げて70歳から受給する予定で、それまでは働いて生活費を賄うつもりです。現在は勤務先で働いており、継続
日々の生活費は収入で賄えていますが、冠婚葬祭などの臨時支出や積立投資(iDeCoやNISA)については、預貯金から取り崩すこともあります。今後は預貯金の状況に応じて調整していく予定です。
住居に関する大きな支出は当面予定していませんが、将来的に数百万円はかかるのではと考えています。将来的に働けなくなり、年金収入のみで生活することへの不安があります。医療費や介護費用、施設入居費用などがどの程度かかるのか見通しが立たないためです。
これまで生活に余裕がなかったこともあり、老後は可能であれば旅行なども楽しみたいと考えています。子どもに対して大きな資産を残す予定はなく、最低限の費用(葬儀や住居整理など)を確保できればよいと考えています。現在の状況で老後の生活は問題ないか、また旅行などを楽しむ余裕が持てるかを知りたいです。また、NISAについては積立投資を行っていますが、年齢を考慮し、積立ではなく成長投資枠を活用して一括投資を行うべきかについてもアドバイスをいただきたいです。
■家計収支データ
「仮名」さんの家計収支データは図表のとおりです。

■家計収支データの補足
(1)年金額について
70歳の繰り下げを前提に「額面で月16万円」を想定。
(2)ボーナスの使いみち
車検や税金、自動車保険、固定資産税、冠婚葬祭などに充て、残りは貯蓄。
(3)自宅について
将来的に施設入居となった場合には、売却も選択肢として考えている。売却額について、現時点では不明。
(4)自動車の買い替えについて
今後の買い替え回数は1~2回程度を想定。1回当たりの費用は数百万円規模を想定しています。
(5)今後の生活の楽しみについて
日常的には軽い娯楽や趣味に支出しているが、大きな支出は抑えている。余裕があれば多少増やしたいと考えている。また、希望する旅行については、資金に余裕があれば現役中、退職後いずれも行きたいと考えている。旅行先については国内外問わず、自然や温泉地などが中心。
■FP井戸美枝からの3つのアドバイス
アドバイス1:年金収入だけでも老後は安心と考えていい
アドバイス2:将来を不安視するより今を楽しむ気持ちで
アドバイス3:今後の運用はリスクを抑えることを意識したい
アドバイス1:年金収入だけでも老後は安心と考えていい
ご相談の「老後資金が足りるかどうか」ですが、結論から言えば、さほど心配は要らないと考えます。
現在の収支ですが、毎月の生活費のデータにある各費目の金額について、便宜上、幅はあるものは中間値、「約」を付けて表示されているものはそのまま金額で試算します。結果、月の支出は14万円、収入は手取りで15万円ですから、貯蓄はできないが、赤字にもならない、つまりトントンとなります。ボーナスも、書かれている使いみちを見ると、余っても数万円ですから、これも同様に貯蓄には回らないと考えます。
次に保有されている金融資産ですが、現在はおよそ4000万円。ご相談者のプランでは、老齢年金の受給を70歳に繰り下げ、それまでは現状のまま働くとのこと。とすれば、少なくともその間、金融資産はそのまま推移(今後の評価額の増減を考慮しない)し、それがそのまま70歳時点の老後資金となります。
ただし、こちらもデータには「約」が付いていますが、毎月の支出費目よりはるかに金額が大きいため、実際と数百万円の誤差が出る可能性があります。その場合は、ご自身で誤差分を加味して、実際に近い老後資金を割り出してください。
70歳以降、収入は年金だけの生活とします。年金の受給額は、額面で月16万円とのこと。現行では、70歳からの繰り下げ受給は42%増。手取り額だと14万円台半ばですから、増額の割合は多少下がります。
それでも年金だけでほぼ生活費がカバーできるので、ご相談者の場合、増額のメリットは十分大きいと言えます。また、今後の大きな支出として、自動車の買い替えや住宅リフォームを計1500万円と見積もったとしても、基本的には2500万円の老後資金をずっと手元に置いておけることになります。結果、老後資金は準備できていると言えるわけです。
アドバイス2:将来を不安視するより今を楽しむ気持ちで
ただし、この試算は、ご相談者が「70歳まで働き、現状の収入を維持する」という前提です。では、ご相談者が65歳でリタイアされるとしたらどうでしょうか。
それでも、老齢年金を予定どおり70歳からの繰り下げ受給とすれば、それまでの5年間は無収入となります。
生活費を現在と同じとすると、月14万円とボーナスから捻出していたその他のコストで年間180万円。5年間で900万円を老後資金から取り崩します。自動車の買い替えや住宅リフォームの費用を先の試算と同額とすると、残る(ずっと維持できる)老後資金は1600万円。それでも、1人暮らしでの老後を心配する金額ではありません。
また、途中、老後資金を取り崩す生活に不安を感じれば、もっと早めに受給してもいいと思います。もともと老後資金に余裕があります。状況に応じて対応されればいいでしょう。
また、「医療費や介護費用、施設入所の費用が分からず不安」とあります。
ご心配であることは理解できます。ご自身がいつ病気になるか、介護や施設が必要になるかは、誰にも分かりません。
しかし、例えば施設に関しては、あくまで統計ですが、施設利用者の入所年齢は、半数以上が80歳を超えています。相談者もそうであれば、少なくともあと15年以上は先。私も施設は仕事柄、いろいろ見てきましたが、その形態もサービス内容も年々変化しています。ならば、現時点では、相談者に合った施設を決め、その準備をすることはあまり意味がありません。
それより、せっかく今まで頑張ってこられたし、今は老後資金にも余裕がある。ならば、希望されている旅行を、今年から楽しまれてはどうですか。毎年、年間20万円使われても、ときにはもっと増やしても、試算上、問題ないはずです。施設にかかるコストも、入所が必要となった、そのときに手元にある老後資金や受給されている年金、自宅の売却額などでカバーできる施設を選ぶ。そんな意識でいいと思います。
それと、医療費は健康保険(または国民健康保険)があり、民間の医療保険にも加入されています。介護は公的介護保険があります。一般的に想定される自己負担分は老後資金で十分で賄えるでしょう。
アドバイス3:今後の運用はリスクを抑えることを意識したい
最後に資産運用について。
まず、預貯金と投資商品の割合ですが、65歳~70歳の5年間、無収入になる可能性があります。また、自動車の買い替えなど、まとまった支出の捻出に備えるためにも、常時1000万円は貯蓄で残し、残りを運用に回していく。利回りも高くなっていますので、貯蓄の一部は短期の定期預金に預けてもいいと思います。
運用についてですが、iDeCoは2026年12月施行の法改正で、掛金の拠出可能年齢が70歳に拡大されます。ご存じでしょうが、iDeCoは掛金が全額、所得控除になりますので、働いている期間は継続を。掛金の金額も現在と同様でいいでしょう。
運用のメインはNISAになります。
ご相談者は「成長投資枠を利用して一括投資」を検討しているとのこと。一括投資となれば、年間投資額の上限240万円を、非課税保有額の1200万円(投資の元本総額。枠の再利用も含む)に達するまで、スポット買いで継続することになります。
ただし、この運用手段はお勧めしません。「年齢を考慮して」とは、より長期投資を行うために、早く資金を投資に回すという思いがあるかもしれません。しかし、私はリスクの方が勝っていると考えます。スポット買いはタイミングが難しく、高値づかみの可能性が大きくなるからです。
同じ成長投資枠でも、積立にすることで、タイミングを考える必要がなく、購入時期を分散できます。また、投資商品を上場投資信託(ETF)やREIT、米国株や日本株のインデックスファンドと、性格と異なる商品を組み合わせることで、よりリスク分散が可能です。
老後資金に余裕はありますので、一定額を運用に回すことはいいと思います。NISAの活用も運用益が非課税になるメリットを得られます。だからこそ、今後は投資リスクを抑える。その方が、年齢を考慮することにつながると思います。
相談者「仮名」さんから寄せられた感想
大変ご丁寧なアドバイスありがとうございます。老後を楽しむ余裕が持てるとは、とても安心しました。
※マネープランクリニックで相談したい方はこちらのリンクからご応募ください(相談はすべて無料になります)。
※あるじゃん編集部では「貯蓄達人」からのメッセージも募集中です。
教えてくれたのは……
井戸美枝さん

シニアライフ研究家、CFP®、社会保険労務士。講演や執筆、テレビ、ラジオ出演などを通じ、生活に身近な経済問題をはじめ、年金・社会保障問題を専門とする。社会保障審議会 企業年金・個人年金部会委員歴任。国民年金基金連合会理事。「難しいことでもわかりやすく」をモットーに数々の雑誌や新聞に連載を持つ。『知らないと増えない、もらえない妻のお金新ルール』(講談社)『ゼロ活 お金を使い切り、豊かに生きる!』(扶桑社)『私の老後のお金大全』(日経BP社)など累計刊行96万部。最新の書籍『図解でわかる 定年前後にやるべきこと大全』(エクスナレッジ)も好評発売中。YouTubeチャンネル『All About マネー【プロと学ぶお金のキホン】』においても、シニアライフの知恵を動画内で解説。最新動画『【年金繰上げ繰下げどっちがおトク?】今さら聞けない家計のギモンにお答えします!』を発信中!
取材・文/清水京武







