
ゼブラの新ブランド「THE ZEBRA」と、その第1弾製品「HAMON(ハモン)」は、日本における「高級筆記具」の基準の1つになるのかもしれません。宝石や希少素材を使うのではなく、機能、工作技術、サービスを徹底的に磨き上げることで、必然的に高価なボールペンになった「HAMON」を手にすると、これまで高級筆記具に感じていたモヤモヤが晴れるような気がしたのです。
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「実用文具としての高級ボールペン」を作るということ
「ゼブラはこれまで実用文具をずっと作ってきたため、高級品を作るにしても、やはり実用的なものにしたいという思いがありました。しかし市場を見渡すと、そのような商品はあまりないと気が付いたのです。そこは、ブルーオーシャンというほどではないと思いますが、他社と同じようなアプローチをしても仕方ないですし、せっかく挑戦するならまだどこも占めていないポジションを目指したいと考えていくうちに、“実用的な高級筆記具”という方向性にピントが合ってきました」と、今回のプロジェクト担当であるゼブラ株式会社研究部シニア・プロフェッショナルの中田裕二郎さんが、企画の始まりを話してくださいました。
実用品と高級品というのは、本来なら両立しても不思議はないのですが、ボールペンは万年筆の下位互換のような位置づけで、戦後に普及した比較的新しい製品でもあるため、高級品というイメージとうまく結びつかなかったのでしょう。そのため、「HAMON」の開発は、全てがゼロからのスタートだったようです。それこそ、筆記具以外の高級腕時計などのモノづくりの現場に取材に行ったそうです
子へ、孫へと渡していけるボールペンというアイデアから始まった

そもそも、ゼブラの筆記具は、ノック式なのにペン先がブレないという画期的な機能を搭載した上に、斬新なデザインまで施した「ブレン」を165円(税込)で販売したり、今では圧倒的なブランド力を持つ「サラサクリップ」が110円(税込)だったりと、性能やデザインの良さからは考えられない低価格の製品を出して、市場を驚かせてきました。
「ボールペンが、万年筆のように愛用品として子や孫に引き継げないのは、どんどん技術が進歩して、昔の製品が陳腐化してしまうからだと思ったのです。新しいインクやチップが出ると、そちらの方が全然書きやすいので仕方がないのですが、そこを発想の転換で、新しいインクやチップが出たら、必ずそれを使った『THE ZEBRA』用のリフィルを作ってお送りします、という約束が最初のコンセプトでした」と中田さん。
ハッとするほど鮮烈な書き味を実現した「エイジングチップ」

このサービスを行うため、「THE ZEBRA」ブランドのボールペンはリフィルを共通化しており、今回、リフィルもゼロから設計されています。その新しいリフィル最大の機能が「エイジングチップ」です。チップはボールと、それを支えるパイプ状の部品で出来ていて、高精度の技術で作られています。
従来、組み立てた直後のボールペンは、ペン先のボールやその周辺にある加工時のゆがみや切断痕によって、ある程度書かないと上質な筆記感を味わえる状態にはなりませんでした。しかしHAMONでは、あらかじめそのこなれた状態を作ることで、より滑らかな書き味を実現しました。実際、筆者も使ってみて、「ボールペンって、こんなに書き出しがスムーズだったっけ?」と思ったほどです。
「書き続けていると、書き味が変わってくることには気が付いていたので、それを製品に落とし込めないかと考えました。どのように実現しているかは秘密です」と中田さん。イヤフォンなども、購入した後にしばらく音楽を鳴らしてなじませる「エイジング」を行うことがありますが、それがボールペンにも当てはまるとは、言われてみて初めて気が付きました。
ゼブラの歴史を1本のボールペンの中に集約

さらに、日本の金属加工技術の高さを見せたかったというクリップ周りの波紋模様は、工作精度の高さと美しさが光ります。1日に20本程度しか作れないそうです。
ほかにも、サラサクリップ由来のバインダークリップを搭載しながら、芯を繰り出すとクリップが沈み込んで筆記の邪魔にならない仕掛けや、芯を繰り出す時の回転の心地よさなど、機能や使い勝手の良さ、デザインの美しさ、心地よい使用感などを、さまざまな面で最高水準に仕上げようとした結果が、HAMONという1本のボールペンに結集しています。だからこその5万9400円(税込)という価格なのです。

「サラサクリップ」のバインダークリップ、「シャーボ」の回転繰り出し機構、「ブレン」のストレスフリーな書き心地など、1本のボールペンにゼブラの歴史を組み込み、ヒストリカルなペンにしようというのも、今回のコンセプトの1つ。中でも面白いのは、「見える見える」のテレビCMで覚えている人も多いであろう、1966年発売の「クリスタル4100」由来の、インク残量が見える仕掛けです。
かつて実現できた機能を再現することも簡単ではない

「インクはその時点で最新のSYインクを使いたかったのですが、結局そのままでは使えず、新たに開発することになりました。インク残量が見えるようにするには、リフィルの一部を透明にする必要があるのですが、今のインクは発色や定着性など全体的に性能が上がっているため、透明パーツの側面に貼り付いたり、パーツを染めたりしてしまうんです」と中田さん。

ギリギリまで、「見せるようにするのは不可能かもしれない」という状況の中で、インク開発を進めたのだそうです。さらに、金属軸のどの部分に、どのようにインクが見える窓を設けるかという問題もあり、「インク残量が見える仕掛け」の実現には相当苦労したと言います。デザイン的には、透明部分が多い方が見やすいけれど、そうすると安っぽく見えてしまうというジレンマもあったそうです。

そうして出来上がった「HAMON」を実際に手に取って書いてみると、書き味を極めたボールペンというのはこういうものだったのかという新鮮な驚きがありました。
低粘度油性ボールペンが登場した時には、そのインクの滑らかさに驚いたのですが、今回は、手にした感触や芯を繰り出す時の操作感、書き始めのスムーズさ、長時間書いても疲れにくいペンの走り具合、クリップが沈み込むギミックの楽しさ、そして波紋模様の見事な曲線と、「書く体験」そのもののアップデートが感じられたのです。この感じは、自分にピッタリの万年筆を使った時に似ているかもしれません。







