adidasの復権
2007年に長距離界の「皇帝」ハイレ・ゲブレシラシエ選手(エチオピア)が、2時間4分26秒で世界記録を出したときのシューズがadidasの「Adizero Japan」で、以降、2014年にデニス・キメット選手(ケニア)が「Adizero Japan Boost2」で世界記録を出すまでずっと、adidasのシューズを履いたランナーによってマラソンの世界記録が更新されていました。
そのため、当時は市民ランナーの間でもadidas愛好家はとても多く、マラソンを走る筆者もよく「Adizero Japan Boost」シリーズを好んで使用していました。この「Adizero Japan Boost」シリーズは、従来の薄底シューズと比べるとクッション性が高く、やや厚底シューズでしたので、厚底シューズの先駆けといえるかもしれません。
そんな中、2018年にNIKEが販売した厚底シューズ「ヴェイパーフライ」が状況を一変させます。「ヴェイパーフライ」は、単に厚みがあるだけでなく、カーボンプレートが入っていてバネのように大きく弾む点がこれまでのシューズと違っていました。
そしてそれを改良した「ヴェイパーフライ ネクスト%」は、ソールの形状が図1のようになっており、足が勝手に前に進むような従来にない革新的な効果をもたらしました。
その後「ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いて走るランナーは軒並みいい記録を出すようになり、2018年にエリウド・キプチョゲ選手(ケニア)が世界記録を出して以降、2023年のケルヴィン・キプタム選手(ケニア)の世界記録までずっとNIKEの厚底シューズによって世界記録が更新されました。

日本でも、2020年1月の第96回箱根駅伝では実に90%近くのランナーがNIKEの厚底シューズを履くという事態になり、市民ランナーでも記録狙いのランナーはほとんどNIKEの厚底シューズを履くという状況になりました。
NIKEの厚底シューズの技術はしっかりと特許で守られていたため、他社がNIKEの特許に引っかからないように、かつNIKEの厚底シューズを上回るシューズを作るにはだいぶ時間がかかるため、しばらくはNIKEの一強状態が続いていました。
そうした中、adidasやasicsなどのメーカーが数年かけて開発を重ね、NIKEと同等のシューズが作られるようになってきて、そしてようやくadidasのシューズが12年ぶりに世界記録を出したというわけです。
今回、サウェ選手が「Adizero Adios Pro Evo3」を履いて世界記録を出したことはまさに“adidasの復権”といえますが、「Adizero Adios Pro Evo3」は、片足の重量が97gで、およそ卵2個分という驚異的な軽さだけでなく、“トランポリン構造”を取り入れた点が従来の厚底シューズと大きく異なります。
では、トランポリン構造とは具体的にどのようなもので、それを実現したadidasの特許出願中の技術とはどのようなものなのでしょうか。







