
「不倫が始まる場所はどこ?」パートナーの不倫で相談に来られるかたから、時々こんな質問をされることがあります。
実際のところ、不倫は「よくある入口」から始まることがほとんどです。いつもの道を歩いていたら、その日に限って穴が空いていて、ズボっとはまってしまう――そんなイメージです。
私が聞くことが多い“不倫のきっかけ”は、だいたい次の5パターンです。
- 職場・取引先(出張、展示会、発表会、打ち上げ)
- 学校・子ども関連(PTA、保護者会、習い事の送迎)
- パート先・習い事(店長、同僚、講師、コミュニティー内の距離の近さ)
- 同窓会・再会(昔の自分に戻れる錯覚)
- SNS・アプリ(日常の外に自分の“別人格”を作りやすい)
今回はこのうち、「取引先イベント」から始まった不倫のケースを、相談に訪れた男性の目線で紹介します。もちろん、不貞行為は裁判上の離婚原因の1つとされる重大な不法行為であることを忘れてはいけません。
目次
「仕事の顔」を褒められた夜、「家庭での夫の顔」を忘れた

志郎さん(41歳・仮名)は食品メーカー勤務。妻と小学生の子ども一人の三人家族です。夫婦は共働きで、妻も責任あるポジション。家での会話は子どもの予定と生活の段取りが中心でした。
志郎さんは言います。
「妻と仲が悪いわけじゃないんです。ただ、家の中の自分が“担当者”でしかない感じがして」
朝はゴミ出し、帰宅後は子どもの宿題チェック、週末は買い出し。タスクは回っているのに、雑談がない。ねぎらいがない。目が合っても、妻の口から出てくるのは確認事項がほとんど。
「明日の提出物、見た?」
「民間学童の費用、引き落とし大丈夫?」
大事なことだけど、息が詰まる。志郎さんは、 “自分は我慢ができる大人”だと思い込んでいました。結婚なんてこんなもんという気持ちもあったそうです。
転機は、ある飲食店の新メニュー発表イベントでした。志郎さんの会社は食材の協賛企業。そこで店側の女性マネジャーである麻美さん(30代後半・仮名)と出会います。プレゼンのあと、試食ブースで麻美さんが息をはずませて言いました。
「片瀬(志郎)さんの提案、刺さりました。現場のことを分かっていないと出てこない内容です。前向きに動いてみます」
その一言が、志郎さんの胸に残りました。家庭では“抜け漏れチェックされる人”だったのに、仕事の場では“価値を評価される人”になれた。ここで、志郎さんの中に眠っていたものが起きます。それは「承認欲求」でした。
打ち合わせの帰りに終電を逃し……
イベント後の打ち上げでさらに距離が縮まり、業務連絡が増え、メッセージの言葉が少しずつ柔らかくなりました。最初は仕事の話だけ。次に、互いの悩みや疲労の話。いつしか家庭の悩みも混ざるようになります。
ある夜、二人で次回企画の打ち合わせをした帰りに、終電を逃しました。麻美さんが笑いながら言ったそうです。
「たまには、悪い大人になりません?」
そこから先は、志郎さん自身も「言い訳できない」と言います。
「自分が弱かった。あの瞬間、久しぶりに“男”として扱われた気がして、戻れなくなった」
関係が始まると、志郎さんの家庭での態度は変わりました。一般的に夫が不倫すると急に優しくなることが多いと言われますが、志郎さんの場合は逆でした。目を合わせない。話を短く切る。妻の一言にイラつく。このように、罪悪感を家庭への“攻撃性”に変えてしまう男性は少なくありません。そして、妻は察します。
「最近あなた、浮気してない? 私に冷たいよね」
志郎さんはもちろん全否定。ここで一度、夫婦の関係が折れます。信頼が傷ついた状態で、疑いだけが残るからです。
妻が見落としやすい「3つの不足」
志郎さんの話を聞きながら、私は以下のように整理しました。「妻が悪い」のではありません。「夫が自分の弱さを認めず、他者に逃げた」のです。ただし、夫婦のズレ始めた関係が「逃げる原動力」になっていた面もあります。
1. 「ねぎらい不足」ではなく“存在の承認不足”
志郎さんは、家庭の中で「自分がここにいていい」と思えず、「存在の承認」に飢えていました。家庭が管理と確認の場になってしまっていたことで、外での「肯定」をより甘いものと感じてしまったのです。
2. 妻の方が強くなったときに夫が“無力化”する
近年の研究では、日本人の不倫行動について、妻の方が収入が高い場合ほど不倫が生じやすい、といった指摘がされています(ただし個々の事情は多様です)。
私はその理由を「男のプライド」で片づけられるとは思っていません。夫が「家の中での役割」を失ったとき、外で役割を取り戻そうとすることがあるのだと思っています。
3. 不倫は性より“秘密の共有”で燃え上がる
二人だけの合図、二人だけの共通の言葉。これが一番危険です。家庭内での関係は空気のように透明で退屈に感じる。倦怠感が漂う。一方で、外での秘密の共有には家庭では得られない中毒性があるものなのです。
「心が移った理由」を妻に伝えるとき、言ってはいけない言葉
志郎さんは「妻に理由を伝えたいけどどう言えばいいですか」と言いました。
不倫がバレたからではありません。罪悪感で眠れなくなったからです。ここで私は、“伝え方”を間違えると、離婚への坂を一気に転がるとお伝えしました。
志郎さんが妻に伝えるにあたり、私は次の3点を提案しました。
①妻のせいにしない(ここが最重要)
言ってはいけないのは、「君が冷たいから」「女性として見られなくなった(子どもの母親としか思えない)」「家が居心地悪いから」。これらは説明ではなく攻撃で、妻の尊厳を傷つけます。
ベターな言葉は、「自分が弱かった」「自分が逃げた」「自分が壊した」です。修復したいなら、責任を引き受ける言葉からしか始まりません。
②気持ちより先に「行動」で示す
不倫相手との関係を今後どうするのかを明確に提示する必要があります。連絡を絶つのか。職務上の関係があるなら距離を取れるのか。気持ちの謝罪だけでは、妻は安心できません。妻がほしいのは「再発しない構造」です。
③「戻りたいのか、終わりにしたいのか」を曖昧にしない
修復の意思を曖昧にすると、妻の心は宙ぶらりんなままです。修復したいなら「夫婦カウンセリングに行きたい」「家庭のルールを作り直したい」と具体案を出す。終わりにしたいなら、誠実にそれを告げ、子どもと生活の段取りを優先する。中途半端が一番残酷です。
不倫した「本当の理由」
志郎さんは妻にこう伝えました。
「君が悪いとは言わない。俺が、家庭で“夫としての自分”でいる努力をやめて、外に逃げた。弱かった。卑怯だった」
妻は泣いて怒りました。しばらく口もききませんでした。それでも、志郎さんは「相手と会わない」「夫婦で修復の話し合いの場を持つ」ことを提案し続けました。
二人は、すぐに元通りにはなりませんでしたが、別居ではなく“やり直し”を選びました。月1回の家計・育児・家事の会議、週1回の短いデート、そして「互いにありがとうと言うこと」を意識して増やす。まだ道半ばですが、志郎さんは「一番苦しいのは、妻を傷つけた事実と向き合うこと」と言います。
私はここで、読者の皆さんにお伝えしたいのです。
不倫はロマンスではなく、穴に落ちる事故です。そして事故はある程度予防できます。夫を(妻を)管理するのではなく、夫婦の関係を“運用”する。必要なのは、ねぎらい、役割への感謝、事務連絡ではない日常会話の回復です。
それでも、互いに一線を越えたなら責任を曖昧にしないこと。「君に魅力がないから不倫して当然」という態度をとられたら、別れを覚悟した方が幸せになれる(かもしれない)。このジャッジは、今までの夫婦の歴史をじっくりひもときながら腹をくくって見定めましょう。







