『学歴社会は誰のため』(勅使川原真衣著)は、組織開発コンサルタントの著者が教育と雇用をつなぐ制度の背景を交えながら「学歴社会」の謎に迫る一冊。
本書から一部抜粋し、新卒一括採用が日本の雇用と評価のあり方をどのように形づくってきたのかについて紹介します。
新卒を一括採用する理由
日本企業が職務を限定してこなかった背景として忘れちゃいけないのが、新卒一括採用という雇用慣習です。なぜ新卒一括採用が必要とされ、またこれほどまでに定着することとなったのでしょうか? 駆け足でおさらいしておきましょう。
戦後の経済成長期に、大量の人員(労働力)が必要となりましたが、長期雇用かつ年功序列の人材マネジメントシステムにおいては、その年々で定年を迎えて一気に退職する分を、ガサッと採用したくなるものです。
安定的かつ定期的な、次世代要員の補充のために。そこで目をつけたのが、大学を卒業するタイミングで一括して新しい労働力を確保する新卒採用です。
約9割が導入する「よくできた」仕組み
学校卒業の時期に合わせて一斉に採用活動を行なう合理性は、たとえば次の点です。同時期に、同じような年齢の若者を入社させることは、人材育成、マネジメントコストとしても秀逸です。
個々人の仕事の成果を把握して、到達度を測定、評価し……なんてやらずに、年功序列の賃金体系であれば、同時期入社者は自動的にほぼ同じような昇進カーブを描くことを前提とすればいいのですから。
なおかつ、育成も、新卒者を丸ごと社内で1から教育していくスタイルが確立され、効率もよければ、企業は自社の文化に合った人材を長期間にわたって育成できるという利点もあります。
これにより、安定した雇用と組織文化の維持にもつながります。
毎年、日本の卒業時期から逆算して、ほぼ決まったサイクルで就職活動をすることにすれば、計画性という意味では企業側も個人側(学生側)も備えやすい。
スムーズな教育から労働への移行を可能にしたわけです。
ちなみに、日本経済団体連合会(経団連)が会員1480社を対象にした2021年の調査によると、この新卒一括採用の実施割合は91%となっています。
ほぼみんな!!
これはやっぱり「よくできた」仕組みです(いいとは言っていません)。
雇用の流動性を阻害するシステム
メンバーシップ型雇用、新卒一括採用、終身雇用を前提とした年功序列型賃金などは、職務内容以外は、就職のタイミングも採用ターゲットも、辞める時期までがちがちに決めたものです。これは逆に、雇用の流動性を阻害することもできるのです。いつでも誰でも会社を飛び出せるはずもないシステムですから。
一社でよしなに、つつがなく、臨機応変にそのときどきに目の前にあることを「一生懸命」「頑張れば」いい。仕事とはそういうものである——という労働観ができたことは必然なのです。
仕事の「出来」ではなくて、頑張るかどうか。
この労働観であれば、職務を特定することは不要、不可能に近いでしょう。
かつ、この労働観であれば、入社前に個人に対して把握しておきたいのは、「一生懸命」やる奴なのか?「頑張れる」のか?
くらいです。シナプスがつながりますね? 学歴という過去の実績と努力の指標は、その意味では適格な代理指標であるわけです。態度・姿勢が「仕事の評価」にすり替わる土俵が、暗黙のうちに整っていると言っても過言ではないでしょう。
労働法研究の第一人者である濱口桂一郎氏はこう言います。
「学校教育は職業キャリアに大きな影響を与えています。ただし影響を与えているのは、教育内容ではなく学校の偏差値です。その学校で何をどれだけ学んだかではなく、その学校に入る段階の学業成績が重要なのです。就職の際に企業が若者に求めるのは、その企業で使える技能を学校で身につけてきたかどうかではなく、その企業で一から厳しく訓練するのに耐えられる素材かどうか(官能性)なのです。これを私は『教育と職業の密接な無関係』と呼んでいます」
勅使川原 真衣(てしがわら・まい)プロフィール
1982年、横浜市生まれ。東京大学大学院教育学研究科修了。外資コンサルティングファーム勤務を経て組織開発コンサルタントとして独立。2児の母。2020年から進行乳がん闘病中。新書大賞2025にて第5位入賞、HRアワード2025書籍部門入賞の『働くということ』(集英社新書、24年)や本書『学歴社会は誰のため』(PHP新書、25年)他、著書多数。 近著に『「働く」を問い直す』(日経BP)、『人生の「成功」について誰も語ってこなかったこと』(KADOKAWA)、『組織の違和感』(ダイヤモンド社)がある。新聞(本よみうり堂)や雑誌(論壇誌Voice)にて連載中のほか、文化放送武田砂鉄ラジオマガジン水曜パートナーとしても発信している。







