「いつも少し違うかも……」ちょっとした違和感をMCIの早期発見につなげるポイントは?
見逃されやすい初期サインや原因、医療機関での検査、今日からできる予防策について、総合内科専門医が分かりやすく解説します。
軽度認知障害(MCI)とは? 「まだ認知症ではない」が、放置してはいけない分岐点
「軽度認知障害(MCI:Mild Cognitive Impairment)」は、一言で言えば「認知症の前段階」です。記憶力や判断力、思考力といった認知機能が年齢相応よりもやや低下している状態を指します。ただし、日常生活には大きな支障がなく、一人で買い物や外出、金銭管理ができる点が特徴で、認知症とは診断されません。そのため、本人も家族も「年齢のせい」「疲れているだけ」と受け止め、医療機関を受診しないまま経過することも多いです。研究によると、MCIと診断された人の年に約10%が認知症へ進行すると報告されています。一方で、年に約20%は生活習慣の改善や適切な対応によって、認知機能が正常レベルまで回復したというデータもあります。
つまりMCIは、何もしなければ進行する可能性がある一方で、早く気付いて行動すれば将来を変えられる「分岐点」と言えるのです。
軽度認知障害(MCI)の初期症状……同じ話を繰り返す・予定や約束を忘れるなど
MCIの最大の特徴は、症状が軽く、本人も周囲も異常に気付きにくい点にあります。例えば- 同じ話を何度もしてしまう
- 新しい情報や機械の操作を覚えにくい
- 予定や約束を忘れやすい
- 料理や買い物、家計管理が「以前より少し面倒」に感じられる
軽度認知障害(MCI)の原因……さまざまな要因が関与。特にリスクを高める糖尿病
MCIは1つの原因で起こるわけではありません。アルツハイマー型の変化、脳梗塞や動脈硬化などの血管性変化、糖尿病・高血圧・脂質異常症といった生活習慣病、睡眠時無呼吸症候群、うつや慢性的なストレス、ビタミンB12不足や甲状腺機能異常など、さまざまな要因が関与します。特に糖尿病は、MCIやアルツハイマー型認知症のリスクを高める主要な要因の1つで、糖尿病のある人はMCIの発症リスクが1.5~2倍に高まると報告されています。脳の健康は、血管や代謝、炎症を通じて、日々の生活習慣と深く結びついているのです。
軽度認知障害(MCI)は改善できるのか? 病院での検査・効果的な4つの対策法
MCIが疑われる場合、医療機関では認知機能テスト(MMSE、MoCAなど)で記憶力や判断力を評価し、MRIで脳の萎縮や脳梗塞の有無を確認します。さらに血液検査で甲状腺機能、ビタミン不足、貧血、糖代謝などを調べ、いびきや日中の眠気が強い場合には睡眠時無呼吸症候群の評価も行います。これらの検査により、治療で改善が期待できる原因が見つかることも少なくありません。早めの受診が将来の認知症予防につながります。MCIは生活習慣を整えることで改善が期待できる段階です。特に重要なのが、運動・食事・社会活動・睡眠の4つです。ウオーキングなどの有酸素運動は脳の血流を改善し、記憶を司る海馬の萎縮を防ぐとされています。食事は野菜や魚、大豆製品を中心とした日本型食事や地中海食が有効です。家族や友人との会話、地域活動など人との関わりは脳へのよい刺激となり、7時間前後の質のよい睡眠も脳の健康を守るうえで欠かせません。
将来の認知症を防ぐために、小さな違和感を見逃さないで!
MCIは「年のせい」と見過ごされがちですが、適切な対策によって改善が期待できる貴重な段階です。特に、年末年始などの帰省は、親の生活ぶりや会話、もの忘れの程度を客観的に確認できる貴重な機会です。短い滞在でも、「同じ話を繰り返していないか」「予定や約束を忘れていないか」「家事や金銭管理に負担を感じていないか」といった点に目を向けることで、早期の気付きにつながります。
もの忘れや生活の中での小さな変化に気付いた今こそが、将来の認知症を防ぐためのスタートラインです。不安を感じたら早めに医療機関へ相談し、今日からできる生活習慣の見直しを少しずつ始めてみてください。







