互いが気持ちよく会話をするのは、案外、難しいことなのだ。
私が話したことを、自分のこととして語るママ友
「子どもの同級生のお母さんにヨウコさんという人がいるんですが、とっても不思議な人なんです」そう話し始めたのは、リサさん(39歳)。9歳と7歳の子がいるのだが、今年小学校に入った下の子の友達のお母さんが、「なんだか変」なのだという。
「私はそそっかしくて、失敗ばかりするという話をヨウコさんにしていたんです。つい先日も、料理するのに冷蔵庫から卵を取り出したのはいいんですが、手が滑って落としそうになった。あわててもう片方の手でとろうとしたら、またも滑って。それでも落とさなかったんですよ。その様子を見ていた夫が『何踊ってるの』と言い、子どもたちも大笑い。自分でも笑っちゃいましたが、それでも卵を落とさなかった私はエラいでしょと家族に自慢したんです」
たいした話ではないと思いつつ、そのときどうやって“踊った”のか、振り付けまでしてヨウコさんに見せた。
すると数日後のこと。たまたまパート帰りに近所の路上でママ友数人が話しているのを見かけた。
ママ友は「要注意人物扱い」に
「その中の一人が、『見て見て、ヨウコさんの踊り、おかしいのよ』って。卵を落としそうになったときにこんなふうに踊ったんだって、とみんなで笑ってる。いや、それ、私がヨウコさんに話したことだとは言えなかった。ヨウコさんを見たら、『私って、そそっかしいでしょ』と笑ってる。はあ? どういうこと? と思いましたね」数カ月後、同じようなことがあった。そのため、次の機会に、リサさんは試しにおもしろ話を別のママ友にしてから、ヨウコさんに話した。すると案の定、ヨウコさんはまた自分のこととして他のママ友に話したようだ。
「そのとき、『その話、リサさんの話でしょ』と指摘した人がいたみたいで……。その後、ヨウコさんに会ったら睨まれました。別にただのおしゃべりに著作権があるわけじゃないけど、人の話を自分のことのように話してウケを狙うってセコ過ぎますよね」
ヨウコさんは自然と「要注意人物扱い」になっていったという。「気の毒だけど、ああいう癖は直した方がいい」とリサさんは言うが、ヨウコさんがのけ者になるのは望んでいない。どうつきあったらいいのか、今も周囲と共に悩んでいるという。
ついイラッとして
職場の同僚との会話にへきえきとしているのは、アヤノさん(42歳)だ。「うちの部署はけっこう仲よくやっているんですが、中途入社してきた若手のルミさんだけには困ってしまうんです。彼女は、人の話にすぐ茶々を入れてくる。ただ、本人はツッコミを入れて面白くしていると勘違いしているんです」
アヤノさんが、「夫が太ったので、近所のスポーツジムに行き始めたのはいいけど、おなかがすいただのビールが飲みたいだのと言って、行き始める前より太ってしまった」という話をしていたら、ルミさんがいちいち「どのくらい太ってるんですか」「ジムで何をしているんですか」「ビール飲ませなければいいのに」と立て続けに“ツッコミ”を入れてきた。
「話の流れをぶったぎるんですよね。だから、『いや、そういうことはどうでもよくて』と話を進めていくと、『太り具合が分からないと何とも言えないですよー』って。何にも言わなくていいんだよ、ただの世間話なんだからと思っちゃいました」
結局、話の流れを取られていくのでスムーズに会話が進まなかった。ルミさんには何度もそういう思いをさせられているアヤノさんは、ついイラッとして「人の話をぶったぎるのはやめてくれないかな。あなた、いつもそうだから」と言ってしまった。
世間話なんてしない方がよかったのかも……
みんながそう言いたかったと思うが、それまでは一応、遠慮して誰も言っていなかった。だが、アヤノさんが言ってしまったことで、みんな一瞬、ハッとした顔になったという。ルミさんはみるみる涙を浮かべて、場を離れていった。「やっちまった、と思いました。彼女を傷つけるつもりはなかったんですけどね。戻ってきた彼女を先輩が慰めつつ、少し諭して、なんとかおさまったんですが、やはり言わない方がよかったのかもしれないと私も反省しています」
自分が言ったことをルミさんがパワハラと受け止めたかもしれないと危惧していたが、ルミさんは黙々と仕事をしている。その姿を見ると、アヤノさんは罪悪感を覚えてしまう。
「職場での世間話なんて、しない方がよかったのかもしれない。でもうちの部署はそうやって和気藹々とやってきたので……」
アヤノさんの「モヤモヤ」は当分、消えそうにない。








