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「私にもできることから」――静かなボランティアの始まり
東京都八王子市立第十小学校の保護者で、2024年度からベルマーク係を担当する筒井理恵さん。活動を始めた理由を尋ねると、控えめな答えが返ってきました。「PTA会員として少しでも皆さんの役に立つことができればと思ったのですが、人前で話すのが苦手なんです。でも、PTA会長さんから『ご自身が無理なくできることをしてくださればいいんですよ』と聞いて。家でコツコツ作業するベルマーク活動なら私にもできると思いました」
ベルマークの活動は、子どもたちと一緒に行います。最初の仕事を行うのは、ベルマーク委員の児童。ベルマークを集め、学校で必要なものと交換することで、学校をよくしたいと取り組んでいます。
ベルマーク委員の児童は、各家庭から集まったベルマークを企業ごとに分けて袋に入れ、その袋を学校の下駄箱に設置したダンボールに入れます。ダンボールに袋がたまってきたらPTA本部が回収し、PTA室で保管します。
「集まったベルマークは、私ともう一人の保護者の方が年に2回、点数を計算してまとめたものをベルマーク教育助成財団に送っています。子どもたちが仕分けをしたものをPTA本部が回収し、私たちが家で集計して送る、チームワークで成り立っている活動なんです」
2024年度の同校の集票点数は13万724点。東京都の参加団体1842校中、第5位にランクインしました。先日、累計100万点を超え、ベルマーク教育助成財団から記念の盾が届いたそうです。
「ベルマーク委員の子どもたちにも見せてあげたいですね」と、筒井さん。
地道な作業で学校運営に貢献
ベルマークの集計作業は、夜、自宅で行うと言います。子どもが寝静まった後、2時間ほど集中して作業し、数日かけて整理・集計しています。 「自宅での地道な作業が、学校の予算では賄えない備品の購入につながります。結果として学校運営に貢献できる。直接子どもたちの役に立てることがうれしいですね」と、筒井さんは言います。派手ではないけれど、確かな思いやり。それが、学校を支える力になっています。
地域が支える「回収ボックス」の仕組み
同校の元PTA会長で、現在は学校運営協議会会長の櫻井励造さんによると、八王子市では、地域の協力も根強く残っているといいます。「スーパーや信用金庫、銀行などに小学校ごとのベルマーク回収ボックスが置かれていて、PTAや学校関係者が定期的に回収に行くんです。定期的に回収へ行くたび、その箱の重みに『地域が学校を見守ってくれている』という温かな応援を実感できるんです」
細く長く続いている活動が、地域と学校、家庭が自然につながる小さな接点にもなっているようです。
15年続く、ゆるやかなつながり 「サンベル」の活動
東京都小金井市立小金井第三小学校では、ベルマーク活動を行うボランティアグループ「サンベル」が、15年以上にわたり活動を続けています。もともとPTAの活動として始まりましたが、現在は現役の保護者と卒業生(OG/OB)が共に参加するボランティアグループへと発展し、同校PTAの一部に位置付けられています。
メンバーは、現役保護者とOG合わせて16名。月に1度PTA会議室に集まり、皆でおしゃべりしながらベルマークの点数を数えて仕分けを行っています。活動時間は決まっていますが、途中参加、途中退出OK。「ゆるやかで参加しやすい場」であることを重視しているといいます。 OGの柏田直子さんに子どもが卒業してもなお、活動を続ける理由を聞くと、次のように話してくれました。
「先輩方が、ベルマーク活動を『保護者同士でおしゃべりしながら楽しく作業する場』と位置付け、その土壌を作ってくださったんです。私は現役保護者時代から活動に関わっていますが、とても楽しかったので、子どもの卒業後も参加しています。『手作業が多いから、認知症防止にもいいよね』なんて冗談を言いながら(笑)。わが子、そして自分の母校に、子どもたちが集めてくれたベルマークで喜んでもらうものを返せるのはうれしいですね」
同じくOGとして活動を続ける平野智子さんも、活動を続けるメリットがあるといいます。
「現役保護者時代は、中休みにベルマークを教室に回収しに行く時に、子どものクラスの様子をちらっと見たり、先生と学校の様子についてひと言でも話せたりすることが楽しみでした。子どもが卒業した今、ここは子育てや進学、病院情報など、地域に根ざした生の情報を交換できる貴重な場になっています」
「ベルマークが、学校と私、地域をつないだ」
「サンベル」の現在の代表は、「昨年転勤で引っ越ししてきて、とにかく友達が欲しくて参加しました」という現役保護者の佐々木景子さん。「毎回和気あいあいとした雰囲気で居心地がよく、気づけばすっかりサンベルの輪になじんでいました。子どもが6年生になったことを機に、今年度、代表に手を挙げたんです」
サンベルでは、代々ベルマーク活動の広報にも力を入れてきました。かつては活動通信「サンベルどっとこむ」を配布していましたが、現在はスクールメールを通じ、活動内容やメンバー募集情報を発信しています。内容のわかりやすさや独自性が評価され、ベルマーク教育助成財団主催の「ベルマーク便りコンクール2025」で特別賞を受賞しました。
さらに、子どもたちに向けたイベントも開催。
「ベルマーク活動への理解を深めてほしい低学年の児童を対象に、集めた商品の袋や箱から子どもたち自身にベルマークを切り取ってもらい、それを企業ごとに分けて数える作業まで体験してもらったんです。流れを知ってもらうことで、『この作業が、自分たちの学校で使うものにつながる』ということを実感してもらうのが一番の目的でした」(佐々木さん)
ウェブベルマークでも、子どもたちの学びを応援
近年はネットショッピングの際に「ウェブベルマーク」のサイトを経由するだけで自己負担なく学校を支援できる新しいベルマーク運動「ウェブベルマーク」が認知され、導入するPTAも増えています。八王子市立第十小学校の筒井さんは、ウェブベルマークについて、「とても簡単な仕組みで、自動的に寄付ができる手軽さがいいですね」と言います。
保護者への周知については、「特に子どもたちが使う地域の文房具やスポーツ用品を扱っている提携ショップを紹介し、『いつものネットショッピングで協力できますよ』と伝える予定です。今後は、紙のベルマークとウェブベルマークの両方を併用することについて、PTA会長に相談しようと考えています」
小金井市立小金井第三小学校の佐々木さんは、「学校やPTAからのお便りなどを通じて、ウェブベルマークの仕組みの周知に力を入れているところです。普段の買い物の仕方を少し変えるだけで子どもたちのためになる、とても便利なシステムですから」、柏田さんは「自分の学校だけでなく被災校などにも送れるので、もっと広まるといいですね」と言います。
ベルマーク活動は「つながり」を生むためのプロセス
切って集めるアナログの温かさと、クリックで支援できるデジタルの便利さ。どちらの方法も、「子どもたちの学びを支える」という目的は同じです。しかし、今回取材をしてわかったのは、ベルマーク活動が単なる「備品を買うためのポイント集め」ではないということでした。「面倒くさい」と敬遠されがちな地道な作業のプロセスこそが、 「学校運営の役に立ちたい」という思いやりの発露となり、 卒業生や地域の人々を学校につなぎ戻す「おしゃべりの口実」となり、 子育て情報や地域の生の情報を交換する貴重な「場」を生み出しています。
誰かのために少しの時間を割く――その積み重ねが、希薄になりがちな人間関係を「ゆるやかに」つなぎとめる力になっています。









