未成年の子が美容整形をしたいと言ったら、親はどうしたらいいのか。経験者に話を聞くことができた。
一重の目が許せない
「中学3年生の娘がこの夏休み、目を二重にしました。友達に会わないですむこの期間に、どうしてもやりたいと泣きつかれて。このままだと受験も手につかないと言われ、娘のコンプレックスを長年見てきただけに、渋る夫を説き伏せたんです」浮かない顔でそう言うのはチアキさん(46歳)。娘は小学生の頃から、一重の目が嫌いだと言い続けていた。夫は二重なので、一重はチアキさんに似たのだと思われる。3歳違いの弟は大きな二重の目のため、娘は弟をうらやましく思っていたと泣いた。
「一重でも二重でも関係ないと言いたいところだけど、私自身、二重になりたいと思っていましたから、娘の気持ちはよく分かる。娘はいろいろ調べてきて、どうしてもこの夏休みにやりたいと言い張る。まずは私も一緒に行って、医師に話を聞きました。医師は『20歳過ぎてからでも遅くない』『今はまだ成長期』と言ってくれましたが、娘の気持ちははやるばかりで、今すぐにでもやってほしいと強硬でした」
そこまでコンプレックスが強かったのだろう。二重になれば自分に自信がついて、勉強もがんばれると思うと医師の前で断言した。いつもはおとなしい娘が、あんなにはっきり自分の意志を口にするのは、よほどのことなのだろうとチアキさんは感じたという。
「このままでは生きていられない」と言いだして
「それで家に帰って夫を説得して……。夫は『お父さんは、お母さんの一重の目が大好きだったよ。きみの目も好きだよ』と言ったけど、娘は『私は私の目が嫌いなの』とにべもなかった。大人になれば分かるという言葉は、あの世代の子には通用しませんね。一重のままだったら大人になるまで生きていられないかもしれないとまで言いだした。親を脅迫しているのかとびっくりしたけど、彼女にそういう意図はなくて本心だったようです」そこまで言うなら、もうどうしようもなかった。それで埋没法という、元に戻すことが可能な方法で、夏休みに入ってすぐ手術をした。2週間ほどすると腫れも落ち着き、娘は元気に受験に向けて塾に通い始めた。
「確かに一重のときより目がぱっちりしてかわいいと客観的に思いました。でも9月に学校に行ったら、整形したのって言われるんじゃないのと言ったら、それについてはたいして気にしていないようでした」
実際、9月に学校に行った娘は、「二重にするアイテープの使い方をマスターしたと友達に言ったら信じてた」と笑った。
またもコンプレックスに
二重にしたことで娘の笑顔が増え、チアキさんも夫もホッとしていた。ところが最近になって、娘が「目はきれいになったけど、鼻は相変わらず低いのが嫌だ」と言いだした。時間をかけて聞いてみると、どうやら友達にそう言われたらしい。「そんなこと言っていたらキリがない。誰でもコンプレックスはあるし、自分の顔に満足している人なんていない。顔の造りより、笑顔がきれいな子の方がずっとすてきだよと言い続けたんですが、最近、また部屋にこもって鏡ばかり見ているみたい」
いちいち人の言うことを真に受けるな、人の評価を気にするなと、夫もチアキさんも言い聞かせているのだが、娘の心は揺れ動く。そもそもあまり気が強いタイプではなく、友達の言うことに流されやすい傾向があったという。
「もっと“自分”をしっかり持ってほしいと思うのですが、あの子は優しくて人のことを自分のことのように考えてしまうところがある。だから価値観も揺れ動くんですね。二重にしたことが成功体験になって、気になるところはどんどん直したくなっているのかもしれない。その結果、何が待っていると思うのか尋ねたら、『嫌われない』と。じゃあ、今は嫌われてると思っているのかと聞くと、そうは思ってないという。嫌われるのが怖いのかもしれませんが、そんなに整形ばかりしていたら、逆に友達に受け入れてもらえないんじゃないのと言ってしまいました」
娘が潰れてしまわないか心配
このところ、娘は鼻を高くしたいと言わなくなった。だが、その思いは口にしない分、かえって強まっているように感じるとチアキさんは言う。「物価が高くて大変、これからまだまだ学費もかかるしと、ついつい私が家で愚痴っているんですけど、それを聞いたせいか、あまり口には出さなくなった。でも洗面所でじーっと鏡を見ながら鼻をつまんでいる娘を見たら、なんだかちょっといじらしかったですね」
だが、元に戻せる二重の埋没法だったから、渋々ながら賛成したのであって、それ以上の手術を受けさせるつもりはない。最終的には、どうしても受けたいなら、自分で働くようになってからにしなさいと言うつもりだ。
「若いときはコンプレックスと向き合って、思い切り悩んでいいと思うんですが、悩みに打ち克つ前に本人が潰れてしまったらと思うと心配です。でもその分、私は娘をいつも褒めています。褒めて育てたのに、そうなってしまったけど、それでも娘をまるごと受け止めて愛しているのが親なんだと分かってほしくて……」
愛情が娘に伝わらない。それがチアキさんには一番つらいのかもしれない。