10月に発売された新書『アーティスト六法: 日本一わかりやすいエンタメ法律ガイド』(上野裕平著)では、東宝で映画プロデューサーとして活躍後、弁護士に転身した著者が、アイドルやイラストレーター、YouTuberなど全てのアーティストが陥りやすいトラブルとその対策について解説しています。
本書から一部抜粋し、今回は「チケット転売に関する法律上の扱い」について紹介します。
<目次>
Q. チケット転売で一儲けしたい!やっている人も多そうだし
>まだある「エンタメ系トラブルQ&A」一覧私は会社員をしながら、いわゆる「せどり」(中古品などの物品を安く仕入れて、仕入れ値よりも高く売り、利ざやを得るビジネス)を副業にしています。書籍やゲーム、キャラクター商品などが主な取り扱い商品です。
最初はいろいろ苦戦するところもありましたが、最近では副業としても軌道に乗ってきました。今後さらに取り扱い商品のジャンルを拡大していきたいと思っているのですが、とはいえ個人でやっているので在庫を抱えられるスペースは少ないです。
そこで、在庫スペースを取らずに高単価で販売できるコンサートチケットに目をつけているのですが、何か問題はあるでしょうか?
A. 人気アーティストのチケット転売は違法行為にあたる可能性が高いです
せどりは始めるためのハードルが低く、またビジネススキームがわかりやすいので副業としてはかなりメジャーなジャンルだと思われます。フリマアプリ、オークションサイト、ECモールといったプラットフォームを有効に使えば、商品の仕入れから販売までを自宅で完結させることが可能ですので、交通費や移動の手間がかからないという点も魅力です。
一方で、せどりと似たような概念として転売というものがあります。転売を繰り返して行う人のことは俗に「転売ヤー」などと称され、あまりいいイメージはありません。
特にチケットの転売は社会的に大きな問題になっていました。
それでは、現在、これらのせどりやチケット転売にどのような規制があるのか、確認していきましょう。
「古物商許可」を取っていますか
まず、個人であれ、中古品を営利目的で反復継続して売買する場合には、古物営業法に基づいて、都道府県公安委員会から「古物商許可」を得る必要があります。この相談者の場合は、副業とはいえ、明らかにせどりを営利目的で反復継続して行っていますので、まずアドバイスするとすれば、古物商許可を取るように申し向けるということになります。
もっとも、古物営業法は中古品、つまり、一度誰かが使用したものを仕入れて売る場合に適用される法律です。
したがって、新品を購入して転売する行為には古物営業法の適用はなく、原則として誰でも行うことができます。
古物営業法の第1条では、法律の目的として「盗品等の売買の防止、速やかな発見」が挙げられていますが、新品をメーカーや小売店で購入する場合には、それが盗品である可能性は低いので、新品の転売については古物商許可は不要と考えられます。
また、無許可営業など古物営業法の違反行為が認められると、取消処分などの行政処分と3年以下の拘禁刑又は100万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
2024年の古物商許可件数が57万1946件であるのに対して、行政処分としての取消処分の数は3件、営業停止処分が1件、古物営業法違反の検挙件数は20件となっており、よほど悪質な場合にはこのような行政処分や刑事罰が科されるということになります。
チケットの場合も同様と考えてよく、販売済みのチケットは中古品として考えます。つまり、販売済みのチケットを営利目的で反復継続して売買する行為は古物営業法の規制を受けます。
一方で、主催者やプレイガイド等で購入した新品のチケットを転売する行為は古物営業法の適用を受けません。
それでは、新品のチケットを購入して転売する行為は問題がないと言えるのでしょうか?
ライブエンターテインメント全盛の時代へ
私は会社員時代に、自社の音楽レーベルの運営に携わることができました。時期としては2018~2021年頃です。ミリオンに到達するようなCDが数多くあった時代は遠い昔で、フィジカル(CD)からデジタル(配信)への移行がほぼ完了に近づいている頃合いであり、楽曲がCD発売と同時にダウンロード・ストリーミングでリリースされるということが一般的になりつつありました。
当時でもまだ、CDリリースからストリーミングをディレイさせるといった手法でCDを売る試みも見られましたが、それが功を奏した例をあまり知りません。
当然ながら、CDで100万枚売り上げれば、シングルなら約10億円の売り上げ、アルバムなら30億円ほどの売り上げになります。
ダウンロード・ストリーミングでこの規模の売り上げを立てることは至難の業であり、今までCDで稼いでいたアーティストにとっては非常に苦しい時代になったと言えます。このような状況の中で、ライブエンターテインメントが活況を呈しており、コロナ禍の影響をほぼ脱した現在、アーティストの収入の柱になりつつあります。
コンサートの会場、いわゆる箱を決めるのは主催者側ですが、非常に人気のあるアーティストの場合、来たいと思っている人全員にチケットを供給できないということが起こります。このような場合に、公式の販売経路でチケットを買い占めて、これを高額で転売する、しかも営利目的で大量に行う業者が現れて非常に問題になりました。
このような高額転売は、シンプルに消費者にとっては著しく負担になります。
また、チケットが高額すぎるあまり、消費者がコンサートに付随するグッズ、Blu-ray、DVDなどを買う余裕がなくなり、結果的に主催者側にとっても収入が減ることにつながりかねず、非常に問題です。
チケット不正転売禁止法
かつては、各都道府県の迷惑防止条例で「ダフ屋行為」というものが取り締まられてきましたが、現在はインターネットで誰もが容易にチケットを転売できるようになり、迷惑防止条例で取り締まりができる範囲を超えて転売が行われるようになりました。そこで、「ダフ屋行為」に加えて、インターネット上でのチケットの不当な高額転売等を禁止するために「チケット不正転売禁止法」が2019年6月14日に施行されました。
この法律では、興行主の同意のない有償譲渡を禁止する旨が明示されたチケットの不正転売等が禁止されています。
同法の対象となるチケットは特定興行入場券と呼ばれ、チケット適正流通協議会ではチケット券面右上に【特定チケット】と表示することを推奨しており、このような表示がある場合には同法の対象となるチケットであると言えます。
また同法では、業者だけでなく個人であっても、反復継続の意思を持って販売価格を超える価格でチケットの転売が行われていれば、「不正転売」に該当し、罰則の対象となります。
そして、同法に違反した場合には、1年以下の拘禁刑若しくは100万円以下の罰金又はその両方が科されます。チケット適正流通協議会の公式ホームページには、賛同アーティスト、賛同イベント、賛同団体が掲載されており、多くの人気アーティスト、人気イベントが高額転売に対して否定的であることがうかがえます。
したがって、今回の相談に対しては、高額転売が実現するようなアーティストのチケットはチケット不正転売禁止法の対象である可能性が高いため、違法行為として処罰される可能性があり、相談者が検討しているようなチケット転売は見送った方がよいのではないか、という回答になるかと思います。
上野裕平(うえの・ゆうへい)プロフィール
1987年東京都生まれ。 東京大学文学部卒業後、東宝株式会社に入社。 映画プロデューサーとして10年超で数多くの作品に携わる。 同社在職中の2021年に司法試験予備試験に合格し、翌2022年に司法試験に合格。現在は東京芝法律事務所にて執務を行う。







