明日の朝でもいいのに
「一人暮らしになった義母と、1年前から同居しています。70代後半ですが、義母は非常に元気で、テキパキと家事をこなす。私はどちらかというとのんびりタイプで、特に夫が夜遅く帰ってきて食事をしたときなどは、お皿は明日洗おうと水につけておくんです。でも朝起きると、きれいに洗ってある。義母が夜中に気付いて洗っているみたいです」サオリさん(42歳)はそう言って苦笑した。10歳と6歳の子を育てながら、サオリさんもパートで働いているが、「この家の主婦はあなたなのよ」とたびたび義母に言われているという。
「義母はそう言いながら、家事も家計も仕切ってるんですよ。献立だって義母が決めて、私はアシスタントみたいなもの。それだけに皿洗いくらい、その日のうちにやれということなんでしょうけど、私は翌日に回してしまう。翌日だって別にいいじゃないですか」
つい先日、彼女は義母が近所の友人に「ほんとにうちの嫁は、ぐずで怠け者なの」と言っているのを聞いてしまった。友人の方が気を遣って、そそくさと去ったが、義母は素知らぬ顔で家に入っていった。
「そんなふうに思っているのは分かっていたけど、まさか他人にまで言っているとはびっくりしました。でも人にはそれぞれの生き方やリズムがある。せっかちな人もいればのんびり屋もいる。それを人間としてどうよと言われると困りますよね。平気そうな顔をしているけど、私だって傷ついてますよ」
かばってくれない夫にもがっかり
夫にそれとなく言ってみたが、「おふくろはもともとせっかちで、なんでも仕切りたがるタイプなんだよ。サオリが迷惑を被らない範囲で、やりたいようにやらせておけばいい」という返事。それでもどこか釈然としなかったサオリさんは、あるとき「夜中にお皿があっても放っておいてください。朝洗いますから」と言ってみた。「そんなだらしない生活は困るのよと一蹴されました。まあ、義母がやってくれるのならとかまわないでおいたら、『その日使ったものは、お皿でも何でもその日のうちに片付けなさい。まったくどういう教育されてきたんだか』と。さすがにこれにはカチンときました。『うちの母はそんなせっかちな意地悪じゃなかったので』と返したら、義母も激怒。夫が『いいかげんにしろよ、二人とも』と言ったので、私はがっかりしました。夫は私をかばってはくれないんだなと」
結婚して12年もたってから、「母と妻は彼にとって、同程度の重さなのか。他人の私を気遣ってはくれないのか」と分かった。
家族と、自分の家庭が好きだったサオリさんだが、自分の気持ちが冷めていくのを感じているという。
息子の妻の生活時間が不規則
息子一家の生活時間帯が気になって仕方がないというのは、義母の立場のユミコさん(69歳)だ。同じ敷地内での別棟で暮らしている長男夫婦は40歳で共働き。7歳になる孫娘は学校から帰ってくるとユミコさんが住む母屋にやってくる。「息子の妻は、シフト制の仕事なんです。シフトが私にはよく分からないけど、数日に1回は昼間も寝ている。小学校に通う子どもがいるのだから、もうちょっと普通の暮らしができるような仕事につけばいいのにと思っちゃうんですよ。そう言ったら、『私は今の仕事が好きだし、あなたの息子さんも納得して結婚した。娘だって理解している。お義母さんが口を出すことじゃないんです、私の人生ですから』って。ひどい言い方でしょう」
うちにはうちの生活がある。たとえ義母でも口出しは許さないと言われ、「うちの息子が苦労しているんじゃないのかしら」と嫌みったらしく返してしまった。お宅の息子さんが私と結婚したい、私と家庭を築きたいと選択したんです、それを否定するんですかとさらに言われて、ユミコさんは何も言えなくなったという。
干渉するなと言われても……
「人間は、きちんと規則正しく暮らした方が心身ともにいいし、子どもへの影響も考えてくれないと……。母親が寝ていて子どもを見送らないなんて、言語道断ですよ」とはいえ息子に話したら、「彼女には彼女の仕事があるんだよ。生活時間が違うのは仕方ない、僕は彼女の仕事を誇りに思う」とたしなめられた。
「干渉するなと言われても、私の方が人生を知っている。いつか息子の妻は私に、おっしゃるとおりでしたと頭を下げることになると思うんですよね」
年上だから人生を知っているとは限らないし、人生を知っていたからといって誰もがその人と同じパターンで生きていくわけでもない。互いに敬意を持てない関係なのだとしたら、付き合い方を考えていった方が争わずに済むのではないだろうか。