愛内里菜さんの裁判の結末
この裁判は、2022年に行われました(東京地判令和4年12月8日)。歌手の愛内里菜さん(本名「垣内里佳子」)のかつての所属事務所(ギザアーティスト)が、愛内里菜さんに対して、退所後の「愛内里菜」の芸名使用をやめるよう求めた裁判です。
愛内里菜さんとギザアーティストが交わしていた契約書には、「契約期間が終了した後も、事務所の承諾なしに芸名を使用してはいけない」という文言があり、その文言に基づき、ギザアーティストは愛内里菜さんを相手に裁判を起こしたわけです。
この裁判ではまず、「愛内里菜さん自身に、芸名についてのパブリシティ権がある」と認定した上で、「契約書に記載の退所後の芸名使用制限は、事務所がタレントの育成のために投じた資本を回収するなどの目的であったとしても、社会的相当性を欠き、公序良俗に反するものとして無効である」と判断されました。
よって、退所後でも、愛内里菜さんが今後、「愛内里菜」の名前で活動をすることについて何ら問題がないという判決となりました。
この愛内里菜さんの裁判以外にも、近年は、契約書に退所後の芸名使用制限規定があっても、そうした規定は無効であるという判決が出ているため、こうした判決が今回の公正取引委員会の発表内容に影響を与えた可能性もあると思われます。
「のん」→「能年玲奈」に戻せるのか
今回の公正取引委員会の発表を受けて、「のん」さんが「能年玲奈」に芸名を戻せるかどうかですが、今回の公正取引委員会の発表では、本名を芸名としているような場合において退所後の芸名使用を認めない場合は独占禁止法上の問題がある、と強く問題視しています。そのため、仮に「のん」さんが本名である「能年玲奈」に芸名を戻した場合に、元の事務所がそれを止めることはできないと思われます。よって、今後、「のん」さんが「能年玲奈」に芸名を戻したとしても、何か問題が生じることはないはずです。
それでは、実際に芸名を戻されるかというと、おそらく戻さないのではないかと筆者は考えます。そもそも先述のような判決が出た時点などで「能年玲奈」に戻すこともできたでしょう。これまで戻せるタイミングがあったにもかかわらず戻さなかったことが、今後も「のん」という芸名を使い続けるということの表れではないでしょうか。
また、「のん」に改名してから、映画『さかなのこ』をはじめ、映画やドラマ、音楽などで素晴らしい作品をたくさん作り上げていますし、かつて「能年玲奈」として活動をしていたことを知らない若い人もいるでしょうから、今から名前を元に戻すというのは考えにくいのです。
<参考>
公正取引委員会「実演家等と芸能事務所、放送事業者等及びレコード会社との取引の適正化に関する指針」
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