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「退所後に芸名を変えさせるのはダメ」公取委の指針発表で気になる…のんは芸名を能年玲奈に戻せるのか(2ページ目)

公正取引委員会が、タレントが退所した後に事務所が芸名使用を制限するのは独占禁止法違反の可能性があると発表しました。これを受けて、2016年に「能年玲奈」から改名した俳優・アーティストの「のん」さんが、「能年玲奈」に芸名に戻せるのかなどを芸能関連の契約の専門家として解説します。※画像:PIXTA

藤枝 秀幸

藤枝 秀幸

弁理士 ガイド

弁理士・行政書士。IT会社等でのプログラマ・SEとしてのシステム開発等を経て、2009年に当事務所(現:藤枝知財法務事務所)を開業。現在はIT分野やエンタメ分野のクライアント様を中心に契約書業務や知的財産業務を日々行わせて頂いております。

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「能年玲奈」から「のん」に改名したいきさつ

当時の芸名である「能年玲奈」という名前は本名であったにもかかわらず、所属していた事務所を2016年に退所した際、芸名を「のん」に改名することになりましたが、その理由は、おそらく当時の事務所との契約内容にあるのではないかと推察します。

当時の週刊誌の報道によると、「のん」さんが当時の事務所と交わしていた契約書には、「退所後の芸名使用はタレントと事務所、双方の協議が必要」などの文言が記載されていたとのこと。

「双方の合意」ではなく、「双方の協議」というやや曖昧な書き方のようですが、このような文言が契約書に入っていることは、2016年当時はさほど珍しいことではありませんでした。

筆者も専門家として20年近く芸能関連の契約に関わっていますが、このような文言が入っている契約書をこれまで多く見てきました。

具体的には、「事務所の承諾なく、使用していた芸名を退所後に使用してはならない」「芸名に関する権利は全て事務所に帰属するため、退所後の芸名の使用は事務所の承諾を必要とする」などです。

2010年代よりも前には、退所後の芸名使用について記載がない契約書も比較的あったように思われますが、2010年代に入ったあたりから、退所後の芸名使用を制限するような文言が入っている契約書が増えてきたと感じます。

かなり昔の芸能事務所とタレントとの契約書は、たった2ページほどの簡素なものもよくありました。しかし、2010年に入ったあたりから、芸能事務所側の作成する契約書もかなりしっかりとしたものになってきた中で、タレントの独立や他事務所への移籍を少しでも防ぎたいという芸能事務所側の思惑などもあって、退所後の芸名使用を制限するような文言が入ってくるようになったのではないかと思われます。

こうした当時の状況を考えると、「のん」さんが当時事務所と交わしていた契約書に、退所後の芸名使用を制限するような文言があったため、事務所とのトラブルなどを避ける意味でも、「能年玲奈」から「のん」に改名することになったと推測することができます。

退所に伴い改名したタレントはほかにも

ほかにも、退所に伴い芸名を改名したタレントの事例はあります。例えば、2002年「鈴木あみ」から「鈴木亜美」への改名、2022年「岡田健史」から「水上恒司」への改名、2024年「桜庭ななみ」から「宮内ひとみ」への改名などです。これらの改名の理由としても、当時所属していた芸能事務所との契約内容に、退所後の芸名使用を制限する旨の文言があったからという可能性もあります。

退所後の芸名使用制限は今後、今回の公正取引委員会の発表に基づき、独占禁止法違反となる可能性があるわけですが、かつては、芸能事務所による退所後の芸名使用制限を認める裁判例(FEST VAINQUEUR事件第一審判決(東京地判令和元年10月9日)など)も存在しているような状況であったため、「確実に違法である」とは言えない状態でした。

そうしたことからも、業界の慣習として、退所後の芸名使用制限が契約書に入っていることが比較的多い状態が、長らく続いていたように見受けます。

しかし、2018年に、タレントの独立・移籍を芸能事務所が妨害するような行為が違法となる可能性がある旨を公正取引委員会が発表したあたりから、風向きが変わり始め、その後、退所後の芸名使用制限が違法であるという判断を下すような裁判例も出てきました。

その代表例の1つが、歌手の愛内里菜さんの裁判です。

>次ページ:愛内里菜さんの裁判の結末
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