この指針では、芸能事務所が取るべき17の行動指針が示されており、その中でもとりわけ注目を集めたのが、「芸能事務所はタレントの退所後の芸名使用を制限してはならない」という行動指針であり、「合理的な理由なく退所後のタレントの芸名使用を芸能事務所が制限することは、独占禁止法違反となる場合がある」と示されました。
特に、本名を芸名としているような場合において退所後の芸名使用を認めない場合は、独占禁止法上問題となると考えられると、明確に示されました。
思い出す「能年玲奈」→「のん」への改名
実際、公正取引委員会の実態調査では、「退所後の芸名使用について契約書に何も記載がなかったのに、タレントが退所したとき、芸名の変更を事務所から求められた」といった問題事例が複数あったようです。今後、公正取引委員会は、問題事例のような行動を取る芸能事務所には厳しく対処していくとしていますが、タレントの退所後の改名というと、かつて能年玲奈さんが所属事務所を退所した際に、「のん」に改名したことを思い出した人も多くいるのではないでしょうか。
現在、俳優やアーティストとして大活躍しているのんさんは、かつては能年玲奈という芸名(本名)で活動していて、2013年のNHK連続テレビ小説『あまちゃん』で一躍人気となりました。しかし、その後、当時所属していた芸能事務所を2016年に退所した際に、芸名を「のん」に改名しました。
この改名のいきさつについて、WebやSNS上では、当時の所属事務所が「能年玲奈」を商標登録していたため、「能年玲奈」を芸名として使用するには事務所の許可が必要だったからという話を見かけることがありますが、「能年玲奈」は特許庁データベースで確認する限り、過去も現在も商標登録されていません。
同じような時期に加護亜依さんが芸名を事務所に商標登録されていて、退所後にトラブルになっていたので、その話が混ざってしまったのかもしれませんが、いずれにせよ、「能年玲奈」が商標登録されていたという事実はありません。
では、なぜ「能年玲奈」から「のん」に改名することになったのでしょうか。そして、今回の公正取引委員会の発表を受けて、元の芸名である「能年玲奈」に戻すことはできるのでしょうか。それらを、専門家として芸能関連の契約に20年近く関わってきた経験に基づき、当時の芸能事務所とタレントとの契約内容の実情などを踏まえて解説します。
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