500万円の違約金請求訴訟の行方
2024年7月に行われた裁判では、契約内容や労働環境などを踏まえ、「事務所が女性の精神状態への配慮に欠ける指示を行った結果、信頼関係が決定的に破壊された」として、契約解除の責任は事務所側にあるため事務所側の請求は認めないという判断でした。その後、2024年11月の二審判決でも、「事務所側の不適切な対応によって契約解除を余儀なくされた」として、事務所側の請求は認めないという結果に終わりました。
本件では最終的には違約金を支払わずに済みましたが、この裁判のほかにも、筆者が見聞きしたものでは、以下のような事例があります。
・配信者が作ったイラストや楽曲などの全ての権利が事務所側に帰属するという契約内容になっており、事務所を退所する際にその権利を配信者に戻すよう求めたところ、権利の買取料金を求められた
・契約期間中に配信者側からは辞めることができない契約内容になっていた
・配信により発生した売上の分配率などが明確に契約書に記載されておらず、事務所側が一方的に決めた分配率で分配されていた
これら以外にも例えば、美容系YouTuberに対して、契約終了後3年間、美容に関する配信活動(SNSを含む)のみならず、美容に関する事業も行ってはならないといった、非常に広範囲にわたる禁止義務が契約で定められていたという事例もあります。
実態を踏まえた指針の発表を
VTuberやYouTuber等の配信者は、後ろ盾もない一個人であり、中には未成年者など若い人もおり、配信者側にとって厳しい契約内容であってもよく分からずに契約を取り交わしてしまうこともあります。一度契約を締結してしまうと、実際にトラブルが発生した後になんとかしようと思っても、なかなか難しい面もあります。もちろん事務所側としては、所属する配信者に代わってキャラクター制作費などの初期費用を負担していることもあるため、すぐに配信者に辞められては困るというのも理解できます。
こうした事情を踏まえても、VTuberやYouTuberなどの配信者に厳しすぎる契約が一定数見受けられる現状を考えると、今後、VTuber・YouTuberとその所属事務所との契約実態を公正取引委員会がしっかり調査し、その上で配信者向けの指針を発表しなければ、先述した違約金訴訟のような事態が今後も発生してしまうのではないでしょうか。
公正取引委員会がタレントと芸能事務所との契約の実態調査に乗り出したことで、タレントと芸能事務所との契約内容はだいぶ改善されてきました。同じように、配信者とその所属事務所との契約内容も改善されることが望ましいと筆者は考えます。
<参考>
日本経済新聞「30代で念願のVTuber、1カ月で適応障害 違約金訴訟」(2025年2月14日)
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