今回プレスツアーで訪れたポーランド西部の水の都ヴロツワフで、このパノラマ画の代表作をはじめ、1000体以上の小人像が点在する街歩きや世界遺産の建築など、さまざまな没入体験を楽しんできました。
19世紀にヨーロッパでブームだったパノラマ画
パノラマ画は戦争などで失われたものが多いのですが、現在ポーランドで大規模かつ良好な保存状態で鑑賞できるのが、ポーランド西部の都市ヴロツワフにある「ラツワヴィツェの戦いのパノラマ」。ポーランドを代表する画家ヴォイチェフ・コサックとヤン・スティカによって描かれたものです。絵はパノラマ画専用の円筒形の展示建物にあります。スロープを上り、絵を目の前にしてまず驚くのが、そのサイズ。高さ15m、全長114mで壁をぐるりと取り囲んでいて、とにかく大きい! 下塗りだけでも750kgの絵の具を使ったというから途方もない量です。 パノラマ画がユニークなのが、前景に本物の草や土、道具などリアルな小物が配置されていること。そのため絵画と現実の境目があいまい。写実的な絵のタッチとリアルな大きさ、さらに暗めの照明効果と相まって、まるで自分も絵の光景の中にいるような気分になってきます。 この没入感、当時の人にとっては今のVRくらいのインパクトだったかもしれません。もちろんVRはインタラクティブなデジタル空間、パノラマ画は視覚のみで絵自体は動きませんから、別物ではあるのですが、「そこにいる感覚」や「没入体験」は通じるものがあります。 絵のテーマが「ラツワヴィツェの戦い」だったことが、絵の人気を後押ししました。国民的英雄タデウシュ・コシチュシュコが農民兵を率いてロシア軍に勝利した歴史的瞬間を描いており、当時国を失っていたポーランドの人たちにとっては勇気を与えてくれる絵だったのです。しかしその題材のため、第2次世界大戦後はしばらく公開が許可されませんでした。
再び人々の前に姿を現したのは1985年。国民の募金で円筒形の展示館が建てられ、現在ではヴロツワフを代表する名所の1つになっています。鑑賞は30分ごとの完全入れ替え制で、音声ガイドは日本語もあるので安心。絵の意味や見どころがよく分かります。
まるでおとぎの国! 小人に出会えるヴロツワフで街歩きに没入
パノラマ画でアートの世界に没入したら、次に没入したいのはヴロツワフの街そのものです。実はこの街、美しい水の都として知られ、街歩きの楽しさもひとしおなのです。市の中央をオドラ川とその支流が流れ、その上に120もの橋が架かっていることから、「ポーランドのヴェネチア」といわれることもあります。 そんな水の都を満喫するなら、オドラ川クルーズがおすすめです。太陽光発電で動く船なので、驚くほど静かで環境にもやさしいのがポイント。穏やかな水面からリラックスしながら、街の雰囲気を眺められます。 自分の足で歩くなら、まずはカラフルな建物が並ぶ旧市街広場へ。広場を囲むカフェやレストランのにぎわいは見ているだけでもワクワクします。実はヴロツワフは第2次世界大戦で約75%が破壊され、ワルシャワに次ぐ被害がありました。その後、首都ワルシャワの復興のために、ヴロツワフのレンガまで持ち去られたそうです。そのため「ヴロツワフの人々はワルシャワの旧市街も自分たちの世界遺産だと語っています」と現地ガイドさんが教えてくれました。 ヴロツワフといえば、街に点在する1000体以上の小人像が有名です。もともとは共産主義体制下の1980年代に市民が政府の検閲に抵抗する密かなユーモアとして生まれました。今では街を彩る観光要素として定着しており、「小人マップ」を片手に歩けば宝探し気分。カフェの前や街角のベンチの下など、いろいろなところに隠れています。 百年記念会館も外せない見どころです。1913年、建築家マックス・ベルクが手がけたこの建物は当時としては世界最大規模の鉄筋コンクリート建築で、世界遺産に登録されています。直径65メートル、高さ42メートルの巨大ドームを見上げていると、100年以上前にこんな建築が実現していたことに改めて驚いてしまいます。 百年記念会館という名前の由来は、ナポレオン戦争後の「ライプツィヒの戦い」から100周年を記念して建てられたから。公共スペースとして設計され、スポーツの試合やコンサートなど多数のイベントが開催されてきました。長い歴史の中では、ヨハネ・パウロ2世やダライ・ラマ、さらにヒトラーまでがこのホールを訪れています。
会館の周囲には広大な公園が広がり、日本庭園をはじめ、フランス庭園やイギリス庭園など各国の庭園が点在。夏の名物の噴水ショーでは、音楽と光の演出に合わせて水が舞い上がる光景を楽しめます。
アートの世界に、おとぎ話のような街並み……。何層もの没入体験が待っているヴロツワフです。
取材協力:ポーランド政府観光局


















