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【世界陸上】厚底特許シューズでNIKEを打倒!? マラソンで「asics」が“ゼロ”から逆襲できた理由(2ページ目)

【“特許”という視点から見る世界陸上 #3】東京2025世界陸上の男子マラソンは、最後まで結果が分からないほど激しいレースとなりましたが、その裏側で各シューズメーカーの激しい戦いがあり、日本メーカーasicsが躍進しました。※画像:amanaimages(画像はイメージ)

藤枝 秀幸

藤枝 秀幸

弁理士 ガイド

弁理士・行政書士。IT会社等でのプログラマ・SEとしてのシステム開発等を経て、2009年に当事務所(現:藤枝知財法務事務所)を開業。現在はIT分野やエンタメ分野のクライアント様を中心に契約書業務や知的財産業務を日々行わせて頂いております。

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箱根駅伝で着用者“ゼロ”からの逆襲

先述の通り、NIKEの厚底シューズ「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」が販売されたことにより、一気に厚底シューズがマラソンや箱根駅伝に普及し、2020年1月に行われた箱根駅伝では、実に90%近くのランナーが「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」を履いて走るまでになりました。

この「ズームエックス ヴェイパーフライ ネクスト%」は、NIKEの特許技術によって作られているものだったため、他社がこうしたNIKEの特許技術を回避しつつ、かつNIKEの厚底シューズと同等以上のシューズを開発するには、どうしても一定の時間がかかってしまいました。

asicsは、当初海外メーカーと比べて厚底シューズの開発に後れを取っていたため、2020年1月の箱根駅伝でNIKEの厚底シューズが席巻していた頃は、まだ厚底シューズの実用化には至っていませんでした。

そのため、asicsとスポンサー契約をしている大学でさえ、箱根駅伝本番ではNIKEの厚底シューズを履いて走るという状況となり、2021年の箱根駅伝ではとうとうasicsを履いて走るランナーがゼロとなってしまいました。

マラソンでも同様にNIKEにシェアを大きく奪われてしまうなどの危機的状況の中、asicsは社長直下のプロジェクト「Cプロジェクト」を発足します。これは、「とにかく選手が勝てるシューズを作る」という目的のプロジェクトでした。

その後、社長が自ら意思決定を行うなど驚くほどのスピード感で進み、asicsの初めての厚底シューズ「METASPEED SKY」のプロトタイプが開発され、2020年10月のロンドンマラソンで、アメリカの女子マラソン選手、サラ・ホール選手がこれを履いて走りました。
METASPEEDプロトタイプを履いて走るサラ・ホール選手※画像:サラ・ホール選手Instagram

METASPEEDプロトタイプを履いて走るサラ・ホール選手 ※画像:サラ・ホール選手 Instagram

このasicsの厚底シューズデビュー戦は、サラ・ホール選手が見事2位に輝くという上々のデビュー戦となり、2021年3月に正式に初めての厚底シューズとして「METASPEED SKY」が販売されました。

その後、asicsの厚底シューズで結果を出す選手がどんどん出てきたことによりシェアを伸ばし、2022世界陸上オレゴンのマラソンではasicsを履いていた選手が男子12.9%、女子12.5%となり、そして2025年の箱根駅伝ではNIKEを抜いてシェア2位になりました(シェア1位はadidas)。

そうした流れの中、今回の東京2025世界陸上で、とうとう男子マラソン上位入賞者シェアNo.1と言えるところまで躍進してきたのです。

筆者もマラソンを走るため、asicsの「METASPEED SKY」を持っていますが、本当にいいシューズだと感じています。クッション性、前へ進む推進力、軽さ、そして何よりシューズの安定感が抜群。シューズがぶれず、足首もしっかりと安定した状態で走れます。そのため、フォームをしっかりと維持したまま走れることが、asicsの厚底シューズの最大の特長と言えるのではないでしょうか。

そしてその強みは、asicsの細部にまでこだわった「特許技術」のたまものなのです。

>次ページ:asicsの厚底シューズに使われているさまざまな特許技術
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