しっかり者の妻が怖い妻に変貌して
「もともと妻はしっかりした女性なんです。そこが好きになったんだけど、子どもができてからは僕のことはしもべくらいにしか思ってないんじゃないかと疑心暗鬼になっちゃうんですよね」コウタさん(40歳)は顔をしかめながらそう言った。結婚当初は、もう少し優しかったとも愚痴をこぼす。
「僕だってそこそこ家事はできるんですが、彼女はとにかく手早い。サラダ作るから、レタスをちぎってトマトを切ってと言われてやっていると、彼女は他の料理を一品作って隣に立ち、『まだやってるの。もういい、貸して』と包丁を取り上げてパパッと作ってしまう。すごいね、きみの手早さには誰もかなわないよと思わず褒めたものです。妻もまんざら悪い気はしなかったんでしょう。『もういいから、あなたはお皿を出したりテーブルを片づけたりして』と。それでアシスタントに徹するようになった」
妊娠中も妻は元気で、ほとんどつわりもなかったため、あっという間に臨月になってしまい、その後は産休と育休をとり、家事育児に専念していた。
「僕が何かやろうかと言っても、あなたにできることはないと言われたりして。それなら何もしなくていいのかと思っちゃうじゃないですか」
第二子が生まれて
ところが2つ違いの第二子が産まれてから、さすがの妻もあまりの多忙さに「もう嫌」とキレることがあった。あわてて「だから僕がやるよ」と言うと、「だからって何よ。最初から手助けしてくれてもいいじゃない」と怒り始める。「子どもが一人のときとはまったく違うんだと僕も分かったので、それからはいろいろやってはきたんですが、どうも妻が満足するようにはできなくて」
子どもたちが3歳と1歳になったころには妻も落ち着きを取り戻し、またも「あなたにできることはない。私がやった方が早い」と言い始めた。
それが妻のプライドなら尊重しようと、コウタさんはトイレ掃除や風呂掃除を自らやるようになった。
あらゆることが雑になって
現在、子どもたちは5歳と3歳。かわいい盛りだ。「大変なのは分かるんですが、妻の子どもへの接し方や家事がやたらアバウトなんですよ。言い換えれば雑。もともと緻密な性格ではないけど、雑さかげんがかなりひどくなってきた。子どもが食べるのを手伝うときも、子どもの口には多すぎる量の食べ物を運んで、まるで口に放り込むように与える。それじゃ危険だよと言うと、『文句があるなら自分でやってよ』とスプーンを放り投げる。いろいろなことが雑になっているのが妙に気にはなっていたんです」
忙しいから、ゆっくり行動する子どもたちを待っていられないのだろう。妻のいら立ちが分かるので、コウタさんは妻に代わって子どもたちの世話をすることが増えた。
「何だか子どもたちの服がゴワゴワしているんですよ。以前、彼女は香料の入った柔軟剤を使っていて、僕はその匂いが苦手だから無香料にしてほしいと言ったことがあった。すると彼女、柔軟剤そのものを使うのをやめた。それならそれで洗剤を吟味すればいいんだけどねと言ったら、『文句を言うなら自分でやって』が始まった」
文句じゃないんだと彼は言った。二人で生活しているんだから、これは文句じゃなくて相談、話し合いだよと言うと「いつもそうやって偉そうなのよね、あなたって」と吐き捨てるように言われたという。
互いの存在がストレスに
「疲れているんだろうから、少し休んで実家にでも行ってきたら? 僕が子どもたちの面倒を見るからと言って、今年の夏は妻は3日ほどの予定で実家に帰ったんです。少しはゆっくりできているかなと義母に電話をしてみたら、『夫に子どもをとられたって騒いでるけど、あなたたち大丈夫?』と。義母には詳しく話しました。疲れているなら病院へ行ってみるのも1つの方法じゃないかと提案したんですが、妻には却下されたようです」今もコウタさんは、「手伝わなくていい。あなたがやるより私の方が早い」と言われたり、「文句を言うなら自分でやってよ」と怒られたり。妻のその日の機嫌によって、彼への接し方が変わることに疲れてきたと言う。
「家族仲のいい友人などを見ると羨ましくなります。言いたいことを言い合って、それでも協力し合えるのが理想的だったんですが。おそらく妻は『妻、母はこうあるべき』に自ら縛られているところがあるんだと思う。だからストレスがたまる。そこから解放するにはどうしたらいいのか僕も考えてはいるんですが」
妻の顔色をうかがう生活はしばらく続きそうだと、彼はため息をついた。