尊厳ある死と葬送の実現を目指すNPO法人 エンディングセンター理事長・井上治代氏の著書『おひとりさま時代の死に方』(井上治代著)では、ひとり世帯の現代人が知っておくべき 「死後の大事なこと」を解説しています。
本書から一部抜粋し、「死後事務委任契約者」の意識について紹介します。
親族に頼れない深刻な事情
「死後事務委任を契約した人の意識調査」(2019年12月質問紙による調査、回答者数は28人)の結果からわかったことをまとめると次のようになる。「エンディングセンターを知る前は、自分の死後のことは親族に頼むしかないと思っていたか」という質問で、最初に二つの選択肢を設け、選んでもらった。
「最初はそう思っていた」が7名、「他の方法はないかと考えていた」が21名だった。
「(親族に依頼すると)最初はそう思っていた」と回答した7名は、みな子どものいない人たちであった。葬儀等の依頼対象は兄弟姉妹やいとこといった同世代で、甥や姪では交流がなく葬儀を依頼できるような関係にないということがわかる。
また、最初から親族に頼むことはできないと考えていた人が21名で、圧倒的に多かった。
さらに「親族にご自身のことを頼めないと思った動機、その他、親族への思い」という質問に対する記述から、親族は【高齢】【没交渉】【遠縁・養子】【遠方】で、【迷惑・負担をかけたくない】【自己責任】【葬送の社会化】といったカテゴリーが抽出できた。
「子どもがいない、頼れない」というケースで親族といえば、自分よりも年上の両親や自分と同世代の兄弟姉妹ということになる。それはすなわち共に【高齢】になっていて頼れない存在である。
「兄弟姉妹とも不仲ではないものの、面倒なことを頼みたくないという関係であった。ましてや甥姪に至っては言うに及ばず」とか「兄弟は同じく年をとっていく。その子どもたちとはまったく付き合いもないので【迷惑をかけたくない】」というように、兄弟姉妹は同世代高齢者で、その子ども(甥や姪)となると【没交渉】となっている。そうであるから、もし死後のことを頼むと迷惑がかかると感じている。
「葬送の社会化」が求められている
一方で、「自分の死後は自分で責任を持ちたいと思っています」とか、親族に迷惑をかけたくないという理由として、「単身で生きてきましたので」といったように、【自己責任】と捉えている人もいる。また、「兄弟姉妹も子どももまったくいないので、主人の甥にまで迷惑をかけるわけにはいかないと思っていた」というように、【義理の関係】(結婚によって親戚になった)にある人には迷惑になるだろうと思っていたり、「姉妹それぞれが、結婚後に生活に対する価値観が大きく変わり年々そうなっていきました」というように、姉妹でも結婚によって考え方が変わるので、かつての生まれ出たところの家族(定位家族)を頼るわけにはいかないと考えていたりする。
「私は、子は持たなかった。子の代わりの装置(しくみ)としてのエンディングセンターという存在。そしてそのありがたさ」という記述があったように、親族の数の減少と、関係性の希薄化によって、【葬送の社会化】が求められていることがわかる。
第三者に託す本当の理由
死後のことを「第三者」に依頼しようと思った契機についても聞いてみた。ある契約者は「子がいないということに尽きます。また自分の経験から(こういうことほど自分の経験に拠ってしかるべきだと思う。他の意見、考え等に耳を貸さない、ということではなく)子に頼むのもエンディングセンター(のような存在)に頼むのも金銭面を含め、実はそう差はないのではないかと思う。情だけでは解決しない―というか、情の部分は実は意外に小さいのではないか。またエンディングセンターのような存在に情はないのか―ある。つまりそう差はないのである」という見解を述べている。
また「状況:自分は兄弟がなく、年齢50を迎えました。結婚予定もなく配偶者なし、自分より年齢の若い親族はいとこ数人で、うち親戚付き合いがあるのは二人。気持ち:いとこは快く死後処理を引き受ける気持ちでいてくれるようですが、先のことは健康状態、経済状況等何がどうなるかお互いにわかりません。精神的にも体力・金銭的にもできるだけ負担にならないよう、自分でできることは準備しておきたいと思いました」と記述した50代女性もいた。
さらに「嫁ぎ先のお墓に入って、没交渉の義兄弟の子どもたちに、私たち夫婦の後始末や供養などを頼みたくなかったからです。エンディングセンターの活動を知り、樹木葬が自分たちにいちばんふさわしいと思ったので、つれ合いに提案しました」というように姻族には頼れない状況がわかる。
そして「妻の考えを尊重するのが第一優先。従ってエンディングセンターとなりました」「死去した女房がエンディングセンターに関係していたため」など、男性は自身からではなく、妻の情報と考えに従ったという意見が目立った。
死の不安が安心に変わる
死後事務委任契約をしている人は、子どもがいない人、親族がいても高齢であったり、没交渉であったりするため「迷惑をかけられない」と考えている。死後のことを担うには家族・親族だけでなく、社会的なシステムを構築する必要があると語っている。調査の中の自由記述では「死後サポートは本当にありがたい必要なサポートだと思います。お陰様で死ぬ事に不安がなくエンディングセンターの〈もしもの時の連絡カード〉を部屋に置いて安らいで居ります」という言葉も。死後サポート契約者は安心して生活し、「このような活動は現代に不可欠である」と言う。やはり、こういったシステムが求められているのだ。
井上治代(いのうえ はるよ)プロフィール
社会学博士。東洋大学教授を経て、同大・現代社会総合研究所客員研究員、エンディングデザイン研究所代表。研究成果の社会還元・実践の場として、尊厳ある死と葬送の実現をめざした認定NPO法人エンディングセンターで、「桜葬」墓地と、墓を核とした「墓友」活動を展開している。