『おひとりさま時代の死に方』(井上治代著)では、「ひとりで死んだらどうなるのか?」など誰にも聞けない 「死後の大事なこと」について、尊厳ある死と葬送の実現を目指すNPO法人 エンディングセンター理事長である著者が解説しています。
今回は本書から一部抜粋、友人に死後を託すことの危険性について紹介します。
「口約束」が犯罪の入口に?
安藤雅子さん(仮名/未婚・68歳)は、高齢期に関する話題が書かれた新聞記事をスクラップするなど、積極的に終活に取り組んでいました。時間の使い方に対しても意欲的であった。美術館に行ったり、行事に参加したりするなどして、文化的な生活を楽しんでいました。イベント情報を常に調べて、一週間の予定の中にいくつかイベントを入れていました。
ある日、エンディングセンターの「語りあいの会」に参加されたとき、「自分の死後をどうするか」といった話題になり、安藤さんは「準備している」と話しました。
「私はね、友達に頼んであるの。もし私が死んだら、200万円を玄関のあるところに隠しておくから、それで火葬など死後のことをやってもらうことになっているんです」
しかし、現実はそう簡単ではありません。家族や親族以外の立場である友人が、死亡届の届出人にはなれないし、生前の双方の取り決めがあったとしても、法的な契約がない限り葬儀なども取り仕切れない。何よりも安藤さんが亡くなられた後、友人が200万円を持ち出そうとしたら、窃盗になってしまいます。
友人では死亡届が受理されず、火葬・埋葬許可証ももらえません。自宅で「ひとり死」した場合は、警察による検視が必要になってきます。それが終わってご遺体を引き取って火葬するとなっても、死後事務委任契約もしていない友人の立場ではできないのです。
これまで遺族が難なくやっていたことを、友人(第三者)に代わりにしてもらうだけ、と思っているとまったく違います。安藤さんが、判断能力が衰えていない中で、きちんと死後事務委任契約をしておく必要がある。ではどうしたらいいのかについて見ていこう。
購入済の墓があるのに入れない!?
ある日、エンディングセンターの桜葬墓地を契約している田所フミさん(仮名・77歳)の友人から電話が入った。ひとり暮らしの田所さんが、誰も知らないうちに亡くなって、役所が火葬し、遺骨はお寺に安置されているという。その友人は、田所さんから「お墓は買ってあって、すでに夫とかわいがっていた犬が一緒に埋葬されている」という話を聞いたことがあったそうだ。
このままだと行政の措置で無縁塚に入れられてしまうと思い、かすかに覚えていた地名をたどって霊園を探した。その墓がエンディングセンターの桜葬墓地だった。
お子さんがいないので、生前に葬儀や埋葬、死後事務委任をしておけばよかったが、墓を買っただけで、何も契約をしていなかった。
幸い友人が墓を探し出してくれた。役所に行ってその旨を話し、寺へ遺骨を取りに行き、埋葬まで立ち会ってくれることになった。役所からエンディングセンターに確認の電話があったので、田所さんの契約している墓があることと、友人が埋葬のために来てくれることを伝えた。
このように、頼んでいなかったことを第三者が気遣って実行してくれるケースは、ほとんどない。せっかく跡継ぎを必要としない墓を買っていても、そのままでは入れないこともあります。
身寄りのない人は、自分の生前・死後のことを委任契約し、連絡先などが書かれたカードを持ち歩いたり、自宅の目につきやすいところに、「私に何かあったら、こちらへ連絡して」と書いた紙を貼っておいたりすることが大事なのである。
井上治代(いのうえ はるよ)プロフィール
社会学博士。東洋大学教授を経て、同大・現代社会総合研究所客員研究員、エンディングデザイン研究所代表。研究成果の社会還元・実践の場として、尊厳ある死と葬送の実現をめざした認定NPO法人エンディングセンターで、「桜葬」墓地と、墓を核とした「墓友」活動を展開している。