転職のノウハウ

「転職回数を気にしすぎる人」は見逃してしまう?9回転職した40代経理マンの実話に見る「大切なこと」

転職回数を気にする人は多い。ただ実際のところ、雇用主はそれほど気にしていないこともある。これまで9回も転職を実現してきた経理の40代男性は、なぜ採用されてきたのか。その理由を探ると、転職とキャリアにおいて大切なことが見えてきた。※画像:PIXTA

小松 俊明

小松 俊明

転職のノウハウ・外資転職 ガイド

東京海洋大学教授。専門はグローバル教育/キャリア教育。サイバー大学客員教授を兼任。著書は「できる上司は定時に帰る」「35歳からの転職成功マニュアル」「人材紹介の仕事がよくわかる本」「エンジニア55歳からの定年準備」他。元ヘッドハンターで企業の採用事情に詳しい。

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とりわけ転職回数を気にする人は多いが、回数ばかりを気にしていると重要なことを見逃してしまうかもしれない ※画像:PIXTA

とりわけ転職回数を気にする人は多いが、回数ばかりを気にしていると重要なことを見逃してしまうかもしれない ※画像:PIXTA

「転職回数」を気にする人は多い。転職回数の多さには、人間性に難ありとか仕事ができなそう、転職活動に不利などといった、ネガティブなイメージがあるのもしれない。ただ実際のところ、それは求職者側の先入観が強く、雇用主側はそれほど気にしていないことも。企業が見ているのは別のところにもある。

今回はこれまで9回の転職を実現させた40代男性の実話をもとに、転職回数とキャリアの関係について考える。

「転職活動、楽じゃないですよね」

今や世の中は転職社会である。よりよい条件や環境を求めて転職をする人は多い。もちろん新卒で入った会社で働き続け、生涯一度も転職を経験しない人もいるが、将来をいろいろと計画していたとしても、予定が狂うことは想定しておかなければならない。自分でコントロールできないことのほうが人生には多いのだ。

片桐さん(仮名)は現在40代前半。細身で色白で、実年齢より若く見える爽やかなイケメンだ。片桐さんは大卒で社会人になったのだが、彼はこれまでに9回転職し、このたび10回目の転職に挑んでいる。

「転職活動、楽じゃないですよね」

片桐さんはそう言うが、笑顔ではにかんだ彼の表情には余裕すら感じられる。彼の仕事は経理。特に国家資格を持っているわけではないが、新卒で経理部に配属されて以来、一貫して経理の仕事を続けている。

まず、片桐さんに素朴な疑問を投げ掛けてみた。「どうして転職するのですか」。すると意外な返事が。

「実は私、これまで一度も自分から転職したいと思ったことはないんですよ」

筆者は途方に暮れた。過去に9回も転職しているのに、一体どうして……。どんな事情があるのか。片桐さんに詳しく聞くと、ぽつりぽつりと話し始めた。

「私が初めて転職したのは、新卒で入った会社で粉飾決算が発覚して世間をにぎわせたのがきっかけです。当時は急激に業績が悪化したことで、経理をはじめとした管理部門のスタッフは削減され、まだ新米だった私はすぐ別の会社で職を探すことになりました。ベテランの中高年社員が転職先を確保するのは難しそうだけれど、若手ならすぐに転職先が見つかるから……そんな社内からの圧力をひしひしと感じました」

幸いにも、その後転職先はすぐに見つかったそう。経理の実務経験があったことは中途採用の世界では有利に働いて、転職先でも経理部門の即戦力として仕事をしたと言う。

やはり、いわゆる手に職がある人、専門性が明確なことは強みになると感じながら、それでもなぜ転職を繰り返す必要があったのか。

さまざまな「経理ミス」を目撃して

ふと片桐さんが思い出したように言った言葉が胸に残った。

「私はこれまで、さまざまな『経理ミス』を目撃してきたんです」

片桐さんの言う「経理ミス」とは具体的に、数字の入力誤り、二重計上、在庫の計上漏れ、請求書の送付漏れ・間違い、書類の紛失、そして法改正への対応遅れなどである。これらのミスが続けば部門内のトラブルにとどまらず、会社全体に悪影響を与える可能性もある。

片桐さんによれば、彼の働く会社は、なぜかことごとく経理ミスに見舞われていたそう。彼の働いた会社はどれも中小企業であり、業界内順位も低く、決して業績がいいとは言えなかった。そして経理部門は常にスタッフ不足な状態だったというのだ。経理ミスを誘引しそうな環境だったとも言えるかもしれない。

そうした状況下で、片桐さんの仕事は通常の経理業務にとどまらず、トラブル対応に多くの時間と労力をかけることになっていた。小さなトラブルもあれば、会社が傾くほどの大きなトラブルもあった。その中で、最初の転職と同じように、片桐さんはトラブル対応が一段落するたびに、その会社に自分の席は残されていないと感じていた。

トラブルの原因を自分が作ったことはないと片桐さんは強調する。ただ、トラブル対応の中心に常に置かれてきたため、時には社内の冷たい目にさらされ、責任を負わされるような場面もあったのかもしれない。それが片桐さんのキャリア前半の転職理由だった。

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