
熱中症対策のつもりが、健康に逆効果になることも……正しい水分補給のポイントは?
「水をしっかり飲んでいたのに、熱中症で倒れた」
「熱中症予防にスポーツドリンクを飲んでいたら、血糖値が急上昇した」
夏になると、このような糖尿病患者さんからの相談が増えてきます。
実は、「熱中症対策のつもりでやっていたこと」が、かえってリスクになっているケースが少なくありません。今回は、糖尿病を持つ人だからこそ知っておいてほしい、正しい熱中症対策について、医師が分かりやすく解説します。
ペットボトル1本でご飯茶碗半分相当! スポーツドリンクの甘い罠に注意
「汗をかいたから、スポーツドリンクを」 これは、糖尿病の方にとっては、実はかなり危険な習慣です。なぜなら、スポーツドリンクには糖分がたっぷり含まれているからです。500mlのペットボトル1本に含まれる糖質は、何と約25~30g。これはご飯茶碗半分ほどの糖質量に相当します。さらに怖いのは、「水分補給のつもり」でゴクゴク飲んでしまうこと。糖質を過剰に摂ることで、高血糖 → 脱水 → 熱中症の悪化という、負のスパイラルに陥ってしまうおそれがあります。つまり、糖尿病の人にとって「熱中症対策=スポーツドリンク」は、大きな誤解なのです。
常飲は逆効果? 実は「予防目的」ではない経口補水液(OS-1)
「なら、経口補水液なら安心だろう」と思う方もいるかもしれませんが、ここにも見落としがちな“落とし穴”があります。いわゆるOS-1などの経口補水液は、本来はすでに脱水症状が出た人の「治療用」に作られた飲み物です。健康な人や、まだ脱水していない人が「予防目的」で飲むものではありません。
なぜなら、ナトリウム(塩分)や糖分の濃度が非常に高く、スポーツドリンク以上に血糖値を上げてしまうリスクがあるからです。
少し汗をかいたからと、健康維持の目的で日常的に経口補水液を飲むことは、糖尿病の方にとっては残念ながら逆効果です。
糖尿病患者さんのための熱中症対策3つのポイント
では、糖尿病患者さんは、どうやって熱中症を防げばいいのでしょうか?ポイントは、次の3つです。
1. 水分補給の基本は「水」か「糖分ゼロのお茶」
水分補給といえば、まずは「水」。または、麦茶・そば茶・ルイボスティーなど、カフェインの少ないお茶でもOKです。
冷たすぎるとお腹を冷やすこともあるので、常温~やや冷たいくらいがおすすめ。のどが渇く前に、少しずつこまめに飲むのがコツです。
2. 汗をかいた時は「塩分補給」も忘れずに
水だけを飲んでいると、体内の塩分が不足します。身体がだるくなるだけでなく、「低ナトリウム血症」という危険な状態に陥るケースもあり、注意が必要です。塩分補給の目的で、甘い塩飴に頼るのはいけません。糖分ゼロや低糖タイプの塩タブレットや、塩昆布・みそ汁などで補いましょう。
3. 室温と体調を「こまめにチェック」
糖尿病の方は、「のどの渇きに気づきにくい」「汗をかきにくい」など、体の変化に鈍くなりがちです。エアコンは28℃前後を目安に設定し、できれば湿度もチェックするようにしましょう。湿度は60%以下が理想です。体調が少しでもおかしいと感じたら、無理せず休む勇気も必要です。
「のどが渇いた」と感じた時にはもう遅い?
糖尿病をお持ちの方にとって、「こまめな水分補給」は、血糖コントロールと同じくらい大切です。なぜなら、糖尿病がある場合、脱水のサインに気づきにくくなる傾向があるためです。「のどが渇いた」と感じた時点で、体はすでに軽い脱水状態になっていると考えましょう。「のどの渇きを感じた時に飲む」のではなく、目安は1時間に1回、コップ半分程度を、少しずつこまめに飲むことを心がけてください。暑い屋外だけでなく、室内や夜間も油断せず、水分補給を習慣にしていきましょう。
血糖コントロールと熱中症対策を両立させる夏へ
糖尿病を持つ方にとって、熱中症対策は「血糖コントロールとの両立」がカギになります。スポーツドリンクや経口補水液を、“なんとなく”で選ばないこと。目的とタイミングに合った、水分と塩分の補給を意識することが大切です。正しい知識があれば、夏は決して怖くありません。
血糖コントロールも、熱中症対策も、合言葉は 「こまめに、バランスよく」。
今年の夏は、甘くない正しい対策で、安心して乗り切りましょう!