同僚女性がすぐに口にする言葉
「職場でごく普通に世間話をしているだけなのに、『その発言はノンデリですよ』とすぐに言うマリさん。私と同世代なんですが、なんだか社内の『風紀係』みたいなところがあるんですよね。うちの会社は小さくてアットホーム。当然、多少、人間関係は濃いけど、踏み込んでほしくなければ『そういう質問には答えられませーん』と言えば、みんなそれ以上は何も言わない。なのにマリさんはいちいち、チェックしているんです」それがうっとうしくてたまらないと、ユウカさん(39歳)は言う。小学2年と保育園に通う子どもをもつユウカさんは、ときには子どもが熱を出して同僚や会社に迷惑をかけることもある。
「申し訳ないといえば、『お互いさまだから』と言ってくれる人がいるのが、うちの会社のいいところなんです。もちろん、他の人が同じような状況なら私がカバーするし、独身者だって親が具合が悪いこともある。以前、アパートの隣人が急病で、遠くから家族が来るまで付き添わなければならなくなったという単身者がいたんですが、そのときもみんなで今日は大丈夫だから休んでいいよと。特別、田舎の会社というわけではないんですが(笑)、友人に話すと『珍しいね』と言われます」
のんびり地道にみんなでがんばろうと、いつの間にか「ゆるい」会社のポリシーが出来上がっていた。
“正義警察”は疎ましがられるだけ
「セクハラもパワハラも、『今どき、その一言はダメですよ。社内ならまだしも、社外でそれを言ったら社の業績に関わります』と言えば、オジサンたちも納得してくれる。もちろん、そういう講習も受けましたが、オジサンたちは身に染みて分からないと判断できないから、私たち女性陣が逐一、教えてきたんです。世間話のついでに」そんな社風だから、マリさんのような正義警察は逆に疎ましがられてしまうのだろう。チームワークで仕事を進めていくことが多いので、いかに風通しをよくするかが業績にも関わってくるようだ。
「デリカシーがないと言われても、響かない人もいますからね。その発言の何がいけないのかをちゃんと指摘した方がいいと思うんです」
いきなりレッドカードを取り出すようなことをすると社内の空気が悪くなるとユウカさんは憂えている。
被害者意識が強すぎる
「先日、先輩の息子さんが結婚するという話で社内が盛り上がっていたんですが、そのときもマリさんは知らん顔。一言、おめでとうございますくらい言ってもいいのに、仕事中だから知りませんという風情。まあ、いいんですけどね」その息子さんは、幼いころ、会社に何度か来たこともあるそうで、古参の社員たちはお祝いをしようかと陰で話し合っていた。
「私は直接、息子さんを知らないけど、お祝いするなら参加させてくださいねと言っていたんです。そこにたまたま通りがかったマリさんは、『社内でプライベートな話をするなんて、皆さん、ほんと、ノンデリですよ』って。ノンデリなのかなあ、これ。おめでたいんだからいいんじゃないのと私、ついうっかり言ってしまったんですよね。そうしたら『社内には独身者も多いんです。私は結婚したくないからしないだけだけど、中にはしたくてもできない人がいると思うし』って。おいおい、その発言こそがノンデリだろとツッコみたくなりました」
結婚する人がいるという事実だけがそこに存在するのであって、したくない人、できない人の話題ではない。なのにどうして独身者のことが浮上してくるのか、さっぱり分からないとユウカさんは言う。
誰のための“正義”なのか
「あとから誰かが言ってたけど、彼女がノンデリと言うとき、必ずそこに嫉妬やひがみが介在している気がすると。そうかもしれませんね。人間だからねたみやひがみも生じるものだけど、それはその人の問題。他人に転嫁しちゃいけませんよね」ノンデリだと非難していたマリさんが、それ以来、むしろ「プライベートが充実していないかわいそうな人」と思われるようになってしまった。正義を標榜していたのに、逆に自分のイメージを下げることになったことを本人が知ったら悔しいだろう。
「言いたいことは言えばいいけど、それが周りにどういう影響を及ぼすか、あるいは自分がどう見られるようになるかは想像した方がいいかもしれませんね。彼女の“正義”が、公のための正義なのか、自らのための正義なのか……。そういう視点も大事だと思うんですけどね。彼女に直接は言えませんけど」
ユウカさんはそう言って苦笑した。