いい人なのだけれど
「うちの夫はいい人なんだけど、気が利かないところがあるんです。やることは丁寧だけどゆっくりだし、決断が遅いし。いい人だけじゃ今の時代、生きていけませんよね」そう言って苦笑するサキエさん(40歳)。現在、共働きで9歳と6歳の子を育てている。夫は定時で帰れる仕事で、週に1、2日はリモートワークも可能。一方、サキエさんは多忙な仕事をしており、夫とは逆に週に1、2回は残業必須という状態だ。
「家事も育児も分担していますが、どう考えてもなぜか私に負担がかかっている。どうしてかと思ったら、夫はやることが遅くて能率が悪い。だから私がフォローせざるを得ないんです」
今日は夕飯を作っておいてねと言い置いて、上の子を学校へ送りながらサキエさんが仕事に出かけていく。その日リモートワークの夫は、下の子を保育園に預け、仕事にとりかかるが、本来なら仕事にかかる前に朝食の後片付けができる時間はあるはずだとサキエさんは言う。
「出足が遅い」夫にイライラ
「ところがそれをやらない。しかも昼にはきっちり昼休みをとるから、朝食と昼食の分のお皿がシンクに放りっぱなし。3時くらいの休憩時間にようやく片づけ、夕方5時を過ぎたときにその日の夕飯を何にしようと考え始める。私は冷蔵庫にかけてある白板に一応、その日のメニューを提案して書いて行くんです。例えば冷凍庫に牛肉があるから肉じゃがでもアスパラ巻きでも何でもいいから作ってと書くとする。でも夫がメニューを決めるのは夕方以降なので、それから解凍しても遅いんですよね。せめて昼くらいに出しておけばすぐ作れるのに」冷凍のまま料理できるものと解凍してから調理した方がおいしいものを、サキエさんはきちんと分けて冷凍庫に入れているのだが、夫はいつも「出足が遅い」ため、結局、冷凍餃子やシューマイばかりになってしまうのだそう。
「夫は料理ができないわけでも下手なわけでもないんです。できるのに出足が遅いからできなくなる。しかも段取りを考えないので、私が下の子を保育園から連れて帰ってきてもまだ夕飯ができてない」
何年、こういう生活をしているのよと声を荒らげることもあるという。
聞く耳を持たない夫
夫の家事のやり方は丁寧だとサキエさんはいう。キャベツの千切りをしておいてと言えば、丁寧に包丁で千切りにする。「うちには千切りを作るピーラーがあるんですよ。それで作れば簡単なんです。でも夫は包丁で切った方がおいしいと言う。味の違いなんて分かりませんよ、早くできた方がいい。しかも夫は分量をちゃんと考えない。大きなざるいっぱい、千切りを作ってしまう。切っておけばいつでも食べられるでしょと言うけど、キャベツは他の料理にも使いたいわけです。どうしてそこまで考えられないのかなと思う」
そう言うと、夫は「きみは効率しか考えられないのか」と反発する。いつでも時間を無駄にしない、もっと先回りして段取りを考えろとか文句ばかり言って、どうして家族の幸せを考えないんだと夫は大きなことを言い始める。
「家族の幸せを考えているから、段取りをよくして子どもたちと一緒に過ごす時間を作り出したいんですよ。でも夫は自分が時間的にゆとりがあるから理解してくれない。いつも忙しい忙しいとばかり言っているけど、きみこそ働き方を変えたほうがいいような気がするよと。そうはいかないから協力しないといけないんですけどね」
文句を言っている自分が悲しくなってくる
何を言っても、夫の態度は変わらない。あくせくしている自分が時々嫌になるし、どうして分かってもらえないんだろうといらいらすることもある。「はっきり言えば夫はグズなんですよね。でもいつも一生懸命な姿勢は見えるからグズだとは言えない。もう少し早くできないかなあ、もう少しさっさと決められないかなあといつも言うんですが、そのたびに夫に文句を言っている自分がおかしいのかなとも思えてくる。夫婦は性格が違う方がうまくいくなんていうけど、本当にそうなんですかねえ」
時は金なり。今の時代、どこでどう時間を使うかは人によってかなり違いが大きいのではないだろうか。その価値観が合わないと日常生活をともに送るのは大変かもしれない。なるべく夫が何をやっているか見ないでおく、何時までに何をしてほしいかを明確にして伝えておく。最近のサキエさんはそういったことに気を付けているという。なるべく自分がいらいらしないための工夫だそうだ。