日本は38カ国中32位の結果に……低下が懸念される世界の子どもの幸福感

子どもが幸せを実感できるために今、考えたい大切なこと
2025年5月に発表されたユニセフの調査報告(レポートカード19)によると、日本の子どもの幸福度(精神的幸福度、身体的健康、スキル)の総合順位は、36カ国中14位。2020年に発表された調査結果(レポートカード16)より順位が6つ上がって改善傾向はあるものの、懸念が見られる項目もありました。
その懸念項目とは「精神的幸福度」。つまり、幸せを感じているかどうかに関する項目です。日本は今回、この精神的幸福度が前回より順位を少し上げて32位。前回はワースト2位(38カ国中37位)でしたので、改善していると考えることもできます。
実は今回の調査では、他国の精神的幸福度が全体的に低下しているのですが、では、なぜ世界の子どもたちの精神的幸福度が低下してしまったのでしょう?
なぜ子どもたちの幸福感は低下したのか? 新型コロナが与えた心への影響
今回のレポートカード19は、2022年と2018年の主要データを比較したものですが、この間に起こった大きな出来事が、新型コロナウイルスの大流行です。パンデミックによって多くの国では子どもたちの行動が制限され、対面的なコミュニケーションの機会が多く失われてしまいました。大人は非常事態に直面しても、「いずれは状況が良くなるだろう」「きっといつもの平和な日常が戻るはずだ」というように合理的に考えることができます。そして、不便な生活にさまざまな工夫を取り入れ、不便なりの楽しさを見いだすこともできます。
しかし、未熟な子どもたちには、まだ大人のように器用に発想を転換することができません。強い不安や恐怖にさらされてしまうと、状況におびえるだけで呆然としたり萎縮したりしてしまうのが、子どもたちの素直な心情ではないでしょうか。
今後の調査で子どもの幸福度の変化が明らかになっていくと思われますが、新型コロナ・パンデミックがもたらした心の傷が、この先も子どもたちの心を追い詰めていかないように、大人である私たちは子どもたちの心に寄り添い続けていかなければなりません。
日本の子どもの幸福感低迷の原因は? 「親子の会話の少なさ」は他国より顕著
今回の調査では、日本の子どもの精神的幸福度は前回調査より向上しましたが、とはいえ36カ国中32位という低い結果です。では、なぜ日本の子どもたちは幸福を実感しにくいのでしょう。今回の調査では、その原因の1つに「親子の会話の少なさ」が指摘されており、日本では調査対象国のなかで、親子の会話の頻度が最も低いことが分かりました。親は仕事に追われ、子どもは塾や習い事で帰宅時間が遅くなり、家族はみな一人で夕食を食べている。夕食後は家族がそれぞれイヤホンをつけ、自分のスマホに集中している。このように、日本の家庭のライフスタイルが劇的に変化していくなかで、親と子の会話のチャンスがなかなかつかめなくなっている。こうした話は報道でもしばしば目にしますし、私自身、カウンセリングの場でしばしば耳にするようになりました。
忙しいなかでも、親子がそれぞれに時間のやりくりをして、できるだけ一緒に時間を過ごしながら、つらいことも楽しいことも話し合っていく。親子の会話を増やしていくには、そうした時間をしっかりとることが必要でしょう。日頃からたくさん会話をしていれば、声のトーンや表情から、子どもの気持ちの変化に気付くことができます。すると、子どもが困っているときに、すぐにサポートの手を差し伸べることができます。
子どもは助けが必要なときでも、自分からうまくSOSのサインを発せられないものです。だからこそ、日頃から親子で何気ない会話をたくさん交わしながら、大人が子どもの心情や行動の変化に気付き、早めにサポートの手を差し伸べていくことが必要です。そのような機会を増やすためには、子どもと話す時間を毎日の生活のなかに具体的につくっていくことがなによりも大切なのだと思います。
■参考資料