万博の基本知識を「歴史」の視点から学ぶ
「万博」は「万国博覧会」の略語で、5年以上の間を空けて開催される規模の大きな「登録博覧会」と、テーマを絞って開催される小規模な「認定博覧会」の2種類があることを知っておきましょう。この2つを合わせて「国際博覧会」といいます。歴史的な側面から見ると、万博は主要な出来事と密接に結びついています。
■世界初の万博と日本
世界で初めての万博は、1851年のロンドンで開催されました。この時期の日本はまだ江戸時代で鎖国中でしたが、当時のイギリスは「世界の工場」と呼ばれ、蒸気機関車が展示されたそうです。
ペリーが浦賀に来航したのが1853年、日米和親条約が締結されたのが1854年で、下田が即時開港、その1年後に箱館が開港(航海に必要な物資の補給港として)。朝廷の許可なく井伊直弼が結んだ日米修好通商条約(1858年)により、横浜・神戸・新潟・長崎・箱館の5港を貿易港として開港したのが1859年です。この流れは中学受験生なら必ず覚えておきましょう。
日米修好通商条約の最大の問題点は、領事裁判権を認めたことと関税自主権がないことでした。トランプ関税が毎日のようにニュースになる昨今、関税について出題されたら必ず訊かれるところです。
■日本と万博の歴史
国際博覧会に日本が初めて参加したのが1867年の「パリ万博」(江戸幕府と薩摩藩・佐賀藩が出展)で、江戸幕府使節団の一員として渋沢栄一も参加し、西欧の経済・金融を目の当たりにしたことが後の近代日本の産業振興の礎になったことは、NHK大河ドラマ『青天を衝け』でも描かれていました。
その後1873年の「ウィーン万博」には初めて明治政府として公式に出展し、このとき出品された日本の工芸品は世界中から好評を得たそうです。
■日本国内の万博開催の歴史
日本で開催された初めての万博(登録博覧会)が1970年の「大阪万博」(太陽の塔がシンボル、テーマは「人類の進歩と調和」)で、アジアで初の万博開催だったこともあり、日本の経済成長を世界にアピールするイベントとして大成功を収めました。
当時の一番人気はアメリカ館で展示された「月の石」(アポロ計画で宇宙飛行士が持ち帰った石)で、日本を含む77カ国が参加しました。
ちなみに、万博の来場者数の歴代1位は2010年の「上海万博」(累計7300万人超)、歴代2位が1970年の「大阪万博」(累計6400万人超)で、今回の「大阪・関西万博」は累計2820万人を想定しています。
その後日本で開催された万博は、1975年~1976年の「沖縄国際海洋博」(沖縄が日本に返還されたのは1972年、来場者数349万人、テーマは「海ーその望ましい未来」)。
1985年の「つくば科学万博」(来場者数2033万人、テーマは「人間・居住・環境と科学技術」)。
1990年の「大阪花の万博」(来場者数2312万人、テーマは「自然と人間との共生」)の3回の認定博覧会をはさんで、2005年の「愛知万博」(来場者数2205万人、日本で2度目の登録博覧会、愛称は「愛・地球博」テーマは「自然の叡智」)へと続きました。
つまり、今回の「大阪・関西万博」が、日本での6回目の万博開催となるわけです。
そして、7回目の万博が2027年に横浜で開催予定の「国際園芸博覧会」(グリーンエキスポ2027、認定博覧会)となります。
大阪・関西万博から学ぶ「未来の社会」と「現代の課題」
万博のテーマは必ず時代を反映します。今回の大阪・関西万博のテーマは「いのち輝く未来社会」で、SDGsと密接に関係した内容となっています。公式Webサイトをご覧いただくと分かるのですが、今回の万博は、8つのシグネチャーパビリオンで「いのち」をテーマにした展示を主導し、国内パビリオン(日本の自治体)、民間パビリオン(日本の企業)、海外パビリオン(国・地域・国際機関)で合計180を超えるパビリオンがあります。
海外パビリオンはそれぞれの国の特徴を生かした展示となっているため、各国の文化や特産物、そしてグルメなど、万博をイベントとして楽しむ方に人気のようです。
中学受験生は特に以下のポイントをチェックしておきましょう。
■インフラ整備と地域社会の変革
万博の開催にはいろいろな問題もあります。五輪や万博などの大きなイベントを開催するためには、交通網の整備や残された建築物など(レガシー)をどのように再利用するのかなど、ハード面の課題が存在します。
今回の開催地である夢洲(ゆめしま)は、当初ゴミや浚渫土砂(しゅんせつどしゃ:海底や河川の底を掘削することにより発生する土砂やヘドロのこと)の埋め立て処分場として建設され、その後のテクノポート計画や五輪招致など、さまざまな計画が失敗に終わったことから「負の遺産」と呼ばれていました。
しかし、今回の万博の開催、その後の大阪IR(カジノを含むホテル・劇場・展示場などの施設が集まった統合型リゾート、2030年秋開業を目指す)の建設によって新たな観光拠点への転換を図ろうとしていることは知っておきましょう。
■SDGsと共創
万博のソフト面に関して押さえておきたいのは、「SDGs」と「共創」の2つです。万博は各国の科学技術や文化の展示会という側面が強いイベントですが、来るべき未来をイメージできるのも万博のよさだといえます。
例えば、1970年の大阪万博が開催されたときの日本の合計特殊出生率は2.13、平均寿命は約73歳、経済ランキングはアメリカに次いで世界2位、高度経済成長のいざなぎ景気真っただ中で、明るい未来を夢見ることができた時代でした。
ところが今は、合計特殊出生率1.15、平均寿命は約84歳、経済ランキングは世界4位、失われた30年といわれる長期にわたる低成長時代で、地球温暖化を筆頭に地球規模の課題が山積みです。
だからこそ、皆でアイデアを出し合い、「いのち輝く未来社会」を「共創」するのがテーマで、国連が掲げる17の「持続可能な開発目標」(SDGs)に沿った「誰一人取り残さない」未来を創ろうとしています。
中学受験対策に最適な公式教材
最後になりますが、中学受験をする家庭が押さえておきたい教材があります。万博公式Webサイトの一番下の「協賛・参加」のところの「ジュニアEXPO2025教育プログラム」をクリックしていただくと、万博とSDGsについて学ぶ授業用教材PDFがダウンロードできるようになっています。
大阪大学・関西大学の教授陣の監修によるこの万博学習読本はすごくよくできている教材で、中学受験をする方には「中学校版」での学習をおすすめします。
その理由は、もしも小学校で「小学校版」を授業で扱った(またはこれから扱う)としても、重複することなく、より深いテーマ学習ができるからです。
もちろん、中等教育学校の受検をお考えの方はかならずお子さんに読ませておいてください。小学校版と中学校版で少しずつレベルを変えた教材となっているため、2つを比較しながら学習するのも面白いと思います。
万博会場に足を運ばなくても万博の理念が学べるようになっているのは大変助かります。万博というよりSDGsの学習に最適な教材となっているため、受験生でなくても読む価値がある1冊です。
なお、万博は10月13日までが開催期間なので、公式Webサイトが閉鎖される前までにダウンロードしておくといいでしょう。