『【11の成功例でわかる】自分で自分の介護をする本』(小山朝子/河出書房新社)では、介護福祉士資格を持つ介護ジャーナリスト小山朝子さんが、介助が必要になっても一人暮らしを実現している人や、それを支える人の事例を、当事者へのインタビューをもとに再構成し紹介しています。
今回は本書から一部抜粋し、人一倍繊細で日常生活に困難さを感じている駒田須美さん(61歳)が、「スマートホーム化」により快適な一人暮らしを実現した実体験をお伝えします。
シングルマザーで息子はすでに独立
駒田須美さんは、最近、「ソロ終活」なる言葉があるのを知りました。身寄りがなく、自身の死後を託す人がいないおひとりさまが取り組む終活のことだとか。息子が1歳のときに夫を事故で亡くしてから、シングルマザーとして一人息子を育ててきた須美さんは、「自分の死後を託す人がいない」という点では当てはまりませんが、「おひとりさまが取り組む終活」はまさに自分のことだと思いました。
周囲との違和感
社会に出て働くようになってから、須美さんは周囲との違和感を抱き続けてきました。出社時間にたびたび遅刻してしまったり、部屋の片づけが苦手でいつもものがちらかっていたりと、社会で生きていくうえでの基本的なことが自分には難しいということを感じるようになりました。
「スマートホーム化」によりトラブルを回避
須美さんは、AmazonのAlexa(アレクサ)などで自宅を「スマートホーム化」することで日常生活に起きがちなトラブルを回避する工夫をしています。スマートホームとは、IOT(モノのインターネット=Internet of Things)やAI(人工知能)などの技術を使って、家のなかの家電や設備をネットワークで連携し、便利で快適な暮らしを実現する住まいのことです。
スケジュールを忘れてしまうことがあるため、GoogleカレンダーとAlexaを連動させ、毎日「アレクサ、明日の予定を教えて」とたずねて予定を確認します。
外出の予定がある日は、「アレクサ、〇時になったら知らせて」と、家を出る時間を設定しています。
電気やテレビの消し忘れは、例えば「アレクサ、30分後に電気を消して」と、指定された時刻に自動的に家電をオフするようにしています。
ネットワークカメラやスマートロック(スマホの操作で施錠・開錠ができるシステム)も役に立っています。ネットワークカメラはインターネットに接続できるカメラで、映像がダイレクトにスマートフォンのアプリ上で確認できます。
外出先で鍵の閉め忘れが気になったら、まずネットワークカメラの映像で自分がカギを閉めたかどうかを確認して、閉めた映像が映っていなかったら外出先からスマートロックで施錠することもあります。
苦手な掃除はロボットで克服
須美さんが最も苦手とする掃除は、ロボット掃除機を活用。床を動き回るゴミの吸引掃除専用のタイプに加え、床拭きロボットも使っています。床の汚れ具合に応じて、から拭きや水拭きだけでなく、専用洗剤を使うこともあります。それでも床の汚れが気になったときは、コードレスタイプの「充電式クリーナー」(電気掃除機)を使って吸い取ったり、モップクロスに少量の水を足して拭き取るマイクロファイバーモップで拭いています。掃除の際に腰が痛くなることがありますが、マイクロファイバーモップはハンドルを伸ばして使えるため、中腰にならず、床や壁、窓や天井の掃除ができるのが便利です。
スマホを駆使して困りごとに対応
このような毎日の困りごとへの対応は、機器やグッズで解消できることも意外とあると気付き、便利な家電製品や日用品の情報を積極的に取り入れています。最近は、指輪型デバイスの「スマートリング」で睡眠の状態を把握し、睡眠不足にならないよう注意するようになりました。
困りごとが起きたら書き留めておいたり、スマートフォンでその場で検索してあれこれと対応を考えています。
自分のことでさえわからないことはありますが、少なくとも自分のいちばんの理解者は自分です。こうして日常生活の小さなことに知恵を絞って暮らしている今を、須美さんは幸せに感じています。
小山朝子 プロフィール
東京都生まれ。小学生時代はヤングケアラーで、20代からは洋画家の祖母を約10年にわたり在宅で介護。介護福祉士の資格も有し、ケアラー、ジャーナリスト、介護職の視点からテレビなどの各種メディアでコメントするほか、ラジオのパーソナリティーをつとめるなど多方面で活躍。前著『ひとり暮らしでも大丈夫!自分で自分の介護をする本』(河出書房新社)も好評。日本在宅ホスピス協会役員、日本在宅ケアアライアンス食支援事業委員、東京都福祉サービス第三者評価認証評価者、All About 介護福祉士ガイド。