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「辞めたい! でも……」退職代行サービスはなぜ求められるのか? 脳科学で考える意外な心理

【脳科学者が解説】退職代行サービスのニーズの高まりは、辞めたい気持ちとためらう気持ちの間で揺れる、脳のしくみからも説明できます。退職代行を利用するメリット・デメリット、今悩んでいる方に脳科学者として伝えたいことをまとめました。

阿部 和穂

阿部 和穂

脳科学・医薬 ガイド

東京大学薬学部卒業、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員、星薬科大学講師を経て、武蔵野大学薬学部教授。薬学博士。専門は脳科学と医薬。

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疲れた女性

「辞めたい! でも、気が引ける……」 退職代行を利用する心理とは?(出典:Shutterstock)


退職代行サービスが増え、利用者も増えていることが報告されています。なぜ今、退職代行のニーズが高まっているのでしょうか? 「辞めたい!」と思う心理と、退職代行が求められる理由を、脳科学的な観点から解説します。
 

「辞めたい! でも、退職するのも気が重い」  脳と心が強いストレスを感じるワケ

今の職場を辞めたいと感じたことはありますか? 「辞めたいけど、実際に退職の話を進めるとなると気が重い」という葛藤を抱える人は、少なくないようです。昨今、退職代行サービスの需要が急激に高まっているのは、その心理の表れの1つとも言えるでしょう。

脳科学的に考えると、「辞めたい」という気持ちは、心身にストレスが続いたときに、自分を守ろうとする「本能的な脳」の働きから生じるものです。同じ脳の中でも、本能的な脳の働きは、主に大脳辺縁系が担っています。辞めたいという気持ち自体は、甘えやわがままといったものではなく、ストレスや現状への疑問を抱えたときの、脳の自然な働きです。

一方で、実際に退職の話を進めるとなると、経済的・社会的な問題や、「職場に迷惑をかけるかもしれない」といった不安がわいてくるかもしれません。自分を取り巻く環境を広く考えて判断しようとする「理性的な脳」の働きが、「辞めたい」という気持ちにブレーキをかけようとするためです。理性的な脳の働きは、主に前頭前野が担っています。

私たち人間は、それぞれが本能と理性のバランスをとりながら、互いに円滑に集団社会を営めるよう努力している生き物です。しかし、それにも限界があります。前頭前野によるコントロールで解決できなくなってもなお我慢していると、さらに心身のストレスが増幅し、人によっては本能も理性も働かないような状態(うつや、それに近い状態。過度のストレスを回避する最終手段として、脳が「何もしない」選択をしてしまう状態)に発展してしまうこともあります。
 

退職代行サービスを使う人が急増する心理。利用のメリット・デメリットは?

近年登場した「退職代行サービス」は、辞めたい気持ちを抱えていても、理性的な脳の働きのせいで動けなくなっている人たちにとって、ある種の「救い」になるのは確かでしょう。

そして、「辞めたい」という気持ちを抱えている場合、まずは自身の心身の健康を守るために、知っておくべき基本事項があります。

そもそも民法では、労働者は通常2週間前までに職場へ通知すれば退職できる権利を持っていると定めています。契約期間が決まっている場合でも、やむを得ない理由があれば雇用期間終了前でも退職する権利があります。

職場によっては就業規則などでより早い時期からの通知を求めていることもあるでしょう。また、「自分が辞めたらみんなに迷惑がかかるのでは」と考えて退職を躊躇(ちゅうちょ)するかもしれませんが、その後の対応は経営側が考えることで、あなたの問題ではありません。退職を考える理由は人それぞれですが、私は自由に職場を辞めてよいと思います。

それでも、退職を切り出す勇気が出ない方や、退職を申し出た際に職場や上司から強く引きとめられて対応に困っている方にとって、「退職代行」は手軽に利用できるサービスの1つかもしれません。

特に、周りに気を遣い過ぎてストレスを抱えやすい方や、逆にどちらかというと自己主張が強く、感情的になってしまいやすいと自認している方は、第三者的な立場からサポートしてくれる退職代行サービスを使うことで、退職時のストレスやトラブルを避けられる可能性があるというメリットがあります。

ただし、これらのサービスを提供する業者は現時点では多種多様のようです。中にはあまり良心的ではない業者や、サポートの範囲が限られている業者もあるでしょう。退職を希望して代行を頼んだのにスムーズに進まず、新たなストレスの火種になるケースもあります。その場合は、大きなデメリットになりますので、利用時には注意も必要です。
 

円満退職を叶えたいなら弁護士への相談も選択肢の1つ……心身の健康を守る選択を

退職代行サービスが人気を集める中ですが、私は自分の望む形で円満退職を叶えたいのであれば、弁護士に依頼するのがベストではないかと考えます。職場との交渉において、法的に依頼人の代理人として認められているのは、弁護士(一部のケースで認定司法書士)だけです。費用はそれなりにかかりますが、賢明で確実な選択肢の1つと言えるでしょう。

弁護士が所属していない一般の業者の場合は、依頼人と変わらない立場の人が退職の手続きを文字通り「代行」しているだけとも言えますので、法律上、扱える範囲が限られています。

相反する脳の働きに悩むことがあるかもしれませんが、心身の健康を守るために、時には外部のサポートを得ながら人生を選択していくことは大切です。どのような選択をするにしても、あなたの人生はあなた自身のものだからです。ご自身の心と体を大切に、よりよい未来を選んでください。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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