仲よしのママ友グループができて
1年前、上の子が小学校に上がるタイミングで現在の場所に越してきたシノブさん(42歳)。下の子は現在、5歳で保育園に通っている。シノブさんは下の子が産まれて独身時代から働いていた職場を退職したが、越してきてからパートで働くようになった。「パートは週4回なので、休みの日はたいてい周りのママ友たちに誘われてお茶したりランチしたりを続けていました。本当は気乗りがしなかったんですが、お付き合いも大事かなと思って。なかには上の子と同じクラスの子のママもいるし、これから下の子が小学校に入ることも考えるとむげに断ることはできなかった」
とはいえ、ママ友たち5人は感じのいい人ばかりだった。パートで働いている人たちもいて、職場の人間模様をおもしろおかしく話してくれたりもする。夫や子どもの愚痴も聞かされるが、「お菓子作りが好きだから、いつかお店を持ってみたい」と夢を語ったり、「私は子どもたちを全員、東大に入れるの。でも塾にも行かせてないけどね」と笑いをとったりすることが多かった。
ママ友っていいなと思っていたところに……
「数カ月のうちにそれぞれの性格も分かってきましたが、特に誰かがリーダーシップをとっているわけでもなさそう。しかもそのうちの一人のお父さんが倒れたときは、みんなで子どもを預かったり、彼女の家に夕飯を届けたりと、すごいチームワークで助けていたんです。こういう地域のつながりっていいなと本気で思いました」ときにはLINEでのやりとりが面倒なこともあったが、当たりさわりなく付き合っていこう、困ったときは助け合っていこうとシノブさんは決めた。
「いろいろと地域の情報も教えてもらえるし、何かあったらいつでもお子さんの面倒は見るわよと言われてありがたかった。私も気を遣って、パート先近くでおいしいと評判のクッキーを手に入れて配ったりしました。彼女たちとは仲よくやっていける。そんなふうに思っていたんです」
ところがその気持ちは、いきなり踏みにじられた。
資格取得を報告したら
先々こんなことをしたいと話すこともあった仲間なので、シノブさんは今年に入ってから、ある資格を得たことを報告した。「まだまだ駆け出しなんですが、ファイナンシャルプランナー3級に受かったんですよ。きっとみんな喜んでくれるだろうと思ったら、一瞬、シーンとしたあと『そうなんだ』って」
おめでとう、よかったねという言葉はなかった。あまり知られていない資格かもしれないなと思いつつ、ほぼ独学で受かったこと、この先、2級も取得したいし、宅建も受けたいと彼女は矢継ぎ早に話した。
「以前、不動産関係で仕事をしていたので、資格をとって不動産関係に復帰したいと思っているのと言ったら、『そんなに簡単に仕事見つかるわけないじゃん』『復帰したらすぐ定年になってたりして』と笑いながら言われました」
ディスられてる? みんなだって先の夢を語っていたのに……。シノブさんは焦った。
「ファイナンシャルプランナーって簡単なんでしょ。資格を持っている人が多いってことだよね、だったら経験者が採用されるよね。資格持ってるだけって一番始末に負えないよねという声まで聞こえてきて。私はただ、友達だから喜んでくれるんじゃないかと思っただけなのに」
仲間の努力を認めない
結局、誰かに何か特別いいことがあった場合には、誰も喜ぼうとはしないグループだったのだ。そのための努力をしてきたことさえ認めようとはしない。「誰にも何も起こらない。ずっと今のような生活が続く。それを前提に仲よくしてるってことなんですね。言わなきゃよかったとも思ったし、せめて『じゃあ、私も頑張ってみようかな』という人が一人もいないのもガッカリしたし……」
ところがその日、その仲間の一人から個人的にLINEが届いた。「すごいよ、シノブさん。頑張って努力を重ねたのね、私はえらいと思う。あの場で言えなくてごめん」と。翌日、もう一人からも同じ内容のLINEがきた。
「誰かボスがいるというわけではないのに、みんなが妙なけん制をし合って、誰も一歩前に進まない状態をキープしているように見せている。本当は誰かが何かの勉強をしたり、就職の準備をしたりしているのかもしれないけど、そうしていることが言えないんです。おかしい、そんなの仲間じゃないと思いました」
それ以来、シノブさんはパートが休みの日のランチやお茶会に行かなくなった。LINEからも抜けた。
「大人だから道で会えば、私からあいさつはしますけど、だいたい会釈するようなしないような感じでスルーされます。でももういいやと思って。かえって吹っ切れました。LINEをくれた二人は、『グループを抜けても、何か困ったことがあったらいつでも言って』と言ってくれています。頼るつもりもないけど何があるか分からないから、ありがとう、そのときはよろしくねと返信しておきました」
ママ友は友達ではないという人たちがいる。一方、ママ友関係が続いて本当の友情を育んでいる人たちもいる。そんな人に出会えるかどうかは時の運なのかもしれない。