社会ニュース

熱中症やハチ刺されでも……一般的な意味とは違う? 医学的な「ショック状態」が意味すること

【薬学部教授が解説】「ショック」という言葉は一般的には驚きや衝撃を指しますが、医学的には血液循環が不十分となり、生命に危険が及ぶ状態を指します。特徴的な「ショックの5P」は重要なサインとなります。分かりやすく解説します。

阿部 和穂

阿部 和穂

脳科学・医薬 ガイド

東京大学薬学部卒業、同大学院薬学系研究科修士課程修了。東京大学薬学部助手、米国ソーク研究所博士研究員、星薬科大学講師を経て、武蔵野大学薬学部教授。薬学博士。専門は脳科学と医薬。

プロフィール詳細執筆記事一覧
医師

医療で使われる「ショック状態」が意味することは?


連日の猛暑で「熱中症による死亡」、夏のレジャーで「ハチに刺され死亡」といった報道を目にすることがあります。これらの多くは、心停止の前に「ショック状態」に陥っていた可能性が考えられます。事件・事故のニュースでも「出血によるショック」という言葉を聞くことがあるでしょう。「ショック状態」とは単なる驚きではなく、命に直結する危険な全身反応のことです。一般的な意味と、医療現場での意味が異なるため、戸惑う方もいらっしゃるようですので、ここでは医療現場で使われる「ショック」という言葉の正しい意味と、その仕組みを解説します。
 

意味が異なる? 一般的な「ショック」と医学的な意味の「ショック」

一般的に使われる「ショック」という言葉は、英語のshockに由来し、激しい物理的衝撃や精神的な打撃を意味します。例えば、自動車事故でぶつかった衝撃や、予期していなかった悪いことが起きたときの驚きや動揺です。また、個人のレベルではなく、社会的な打撃や突然の変化に対しても、「オイルショック」「リーマンショック」といった表現が使われることがあります。

一方で、医学的な場面で「ショック」という言葉が使われるときは、意味が異なります。病院などで「ショック状態」という場合、漠然とした衝撃や打撃ではなく、血液循環が不十分になり、さまざまな臓器が酸素不足に陥っている危険な状態を指します。
 

医学的な「ショック状態」の原因と危険性

医学的ショックが起こる原因は、具体的には、低血圧、急性心不全、外傷による大量出血、敗血症などの重い感染症などです。

ショック状態になると血液が全身に十分行き渡らなくなるため、放置すれば死亡リスクがある危険な状態です。
 

「ショックの5P」とは……顔面蒼白・虚脱・冷汗・無脈・呼吸不全

ショックに伴う症状は多くありますが、特徴的な5つの症状をまとめて「ショックの5P」と呼ぶこともあります。
  • 顔面蒼白(pallor)
  • 虚脱(prostration)
  • 冷汗(perspiration)
  • 無脈または脈拍不触(pulseless)
  • 呼吸不全(pulmonary insufficiency)
これらの症状は判断の参考になるだけで、ショック状態かどうかの診断基準ではありません。しかし特別な測定機器がなくても、緊急時に医療関係者が患者を観察するだけで推察できる重要なサインです。5つ全てが揃わなくても、1つでも見られればショックを疑い、経過を慎重に観察しつつ対応します。
 

日常で知っておきたいポイント

身近な人に急な異変が起きたときは慌ててしまうものです。しかし、今回挙げたような顔色や脈の有無、呼吸の状態などを確認できると、万が一の非常時に、医療機関につなげる際にも役立ちます。慌てず適切な行動をとるために、「ショック」の医学的意味と症状を覚えておくといいでしょう。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

あわせて読みたい

カテゴリー一覧

All Aboutサービス・メディア

All About公式SNS
日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
公式SNS一覧
© All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます