直属の上司が変われば影響大だが、普段あまり交流のない人物でも変わるとなれば間接的な影響を自分にもたらすことがある。多くの異動には組織の都合で見れば合理的な理由があるが、社員個人にとっては運の要素が大きいから悩ましい。上司ガチャの対処法について考える。
全ての組織人にとって重要
上司ガチャという表現を最近よく耳にするようになった。最初は「子どもは親を選べない」という意味で「親ガチャ」が話題になった。子どもがどんな親のもとに生まれるかは運次第で、家庭環境などによって人生が大きく左右されるという言葉だが、上司ガチャは親ガチャとは少し異なる状況下で使われている。「部下は上司を選べない」という点では親ガチャとの共通点がある。一方、上司は何度も変わるし、直属の上司以外にも上司と似たような人物は職場に複数いるものだ。つまり親のように1人や2人ではなく、上司はもっと数が多いから影響は大きいのである。ベテラン社員や先輩社員がそのよい例で、上司ガチャという言葉の持つ守備範囲は意外に広いのだ。
上司ガチャが発生するのは、一般には異動の季節と言われている4月と10月が多い。それ以外にも6月と12月にボーナスが支払われた後に転職する人が世間では増えるため、夏の時期や年初にも増える。つまり上司ガチャは年間を通して定期的に起きるのだ。ゆえに上司ガチャへの対処法を考えることは、全ての世代の組織人にとって自らの防衛策として重要なことである。
上司ガチャに“外れる”とは
まずは上司ガチャに“外れる”とはどういう状態を指すのか、それを明確にしておく必要があるだろう。一般的にはハラスメント上司を思い浮かべる人が多いだろうが、それだけにとどまらない。例えば部下の育成に関心がない上司、部下に権限委譲をしない上司、仕事をしない上司、能力の低い上司、上層部との関係が悪い上司など、上司ガチャの外れパターンは枚挙にいとまがない。そして外れパターンはワンパターンではなく、複数のパターンの合わせ技で存在していることが多い。
上司ガチャの外れパターンが多様化している中で、その対処法はどのように考えればいいのだろう。ここでは外れパターンを2つの視点から注目して対処法について考えてみることにしたい。
上司が誰を向いて仕事をしているか
まずは「上司が誰を向いて仕事をしているか」という点に注目する。ほとんどの上司が中間管理職であることを考慮すれば、“自分の上司の顔ばかり見ている上司”には注意が必要だろう。全ての上司はそうだという意見もあるかもしれないが、要は程度の問題である。過度なごますり上司にとって部下は自分の成績を上げるために使いたおせばいいと、極端に言えばこのくらい割り切った考えを持っている可能性がある。一方、上司の顔色を全く見ていない上司も上司ガチャの外れパターンの一種なので、誰を見て仕事をしているのかについてはバランスを見極めるのが大切だ。
過度なごますり上司への対処法であるが、あなたの上司(Aさん)が見ている上司(Bさん)とあなたの関係について考えてみるといいだろう。Aさんが直属の上司ではあるが、あなた自身もBさんと接点を持つ機会を作ってみてもいいかもしれない。
Aさんのような過度なごますり上司は対人関係に敏感であることが多く、直接仕事に関わることでなければ、あなた自身がBさんとよい関係を築いていれば、AさんはBさんからの評価を上げるためにあなたを悪いようには扱わないはずだ。つまり人間関係を損得勘定で測るタイプの上司への対処法としては、Aさんが強く気にかけている人物との関係を改善していくことが効果をもたらすことが多い。
上司の出世事情
次に「上司の出世事情」に注目してみよう。組織にはいろいろな人がいる。出世の早い人がいれば、遅い人もいる。課長、部長という職位でも若くしてそのポストについている人もいれば、平均よりも遅い人もいる。オーナーの親族が若くして管理職をしているケースや、優秀であるがゆえに大抜てきされて若くして管理職をしているような上司もたまにはいる。しかし多くの場合は、年功序列によって年齢と経験に比例して順番にポストについているような人が周りには多いはずだ。上司ガチャの外れパターンが起きる原因の1つは、こうした既定路線から外れてしまっていることにあることが多い。やる気がない、仕事ができない、人徳がないタイプの上司は、出世レースから外れてしまったことが原因で悪循環に陥っていることがある。
このタイプの上司に当たってしまった場合、あなたも周囲と一緒になってその上司を見下すような言動をしていないか(無意識のモノも含めて)、注意してみるといいだろう。当然ながら、本人は周りの人の言動に敏感になっている。やる気がなく仕事もできない状況は当の本人が一番よく知っており、周りからの冷たい目に対してストレスやコンプレックスを感じていることが多い。
部下であるあなたからの視線には特に敏感であるに違いなく、「外れ上司に当たってしまった」と思っているあなたに対しては必要以上にきつく当たってくる可能性もある。これは部下のあなたにとって深刻な事態である。根本的に状況を早期回復させなければならず、上司に対する一種の偏見を取り除くことから始める必要があるだろう。
そのためには上司との対話を増やす必要があるが、なるべく会社や仕事への愚痴ではなくて、プライベートなことを含めて上司が得意なことや関心があることに話題を集める工夫が必要である。そうすることで、このタイプの上司は部下であるあなたを支援してくれる上司に代わっていく可能性もある。
会社の全てが嫌だ、憎いと思って毎日を過ごしている上司が、偏見を持たずに接してきてくれた部下との関係改善を通して後輩、部下の育成に目覚めるというパターンを目にすることがある。そしてこれは出世レースから外れた社員自身の再生計画として有効な手段の1つでもあり、取り組んでみるに値するだろう。
このように上司ガチャは、「上司の立場に立って考えてみること」が大切である。誰もがいずれは上司になるわけで、部下の視点、上司の視点というように複眼的に捉えることで不利な状況を乗り越えていく方法を見いだせるのではないだろうか。