家族優先で過ごしてきた
「うちは結婚当初から夫の意向で、収入に応じて家計は6対4で夫が出す。適宜、見直しも図るということでやってきました」結婚して10年たつサチさん(42歳)はそう言う。8歳の一人娘は公立小学校に通っているが、放課後は私立の学童へ行っている。これがかなりの高額になるようだが、2人とも仕事が多忙なためどうにもならない。
「でも夜には必ず、最低限、夫か私のどちらかが娘と一緒に食事をとるようにしています。私の仕事は本来ならリモートも可能なんですが、私自身が責任ある立場になってしまったため週4日以上は出社しなければならなくて。結局、5日全部出社しています」
夫はもともとリモートが不可能な現場仕事。しかも出張が多く、どうにもならないときは家事育児代行サービスを頼むこともある。
「うちの親などはいったん私が仕事を辞める手もあるんじゃないかと言いましたが、それはしたくない。夫と話し合いを重ねた結果、今のようなスタイルになりました」
夫を信頼していたが
娘の習い事や家事代行サービスなどに関する費用もほぼ折半。今月、何にいくら使ったかについてはサチさんがアプリを使って記録、夫と共有している。赤字が出た場合は、夫が補填(ほてん)することが多い。記録するためにサチさんが手間をかけているからだ。「かなりきちんと対等に支払っている感じです。家事に関してはわりとゆるい分担で、私は料理が好きなので食事関係は私、夫は整理整頓や掃除、洗濯は気づいたほうが洗濯機に放り込むという感じですね。2人とも、とにかく娘に寂しい思いをさせないこと、娘との会話を最優先することにしています」
休日はなるべく合わせて家族で過ごす。あと10年もしたら娘は友達を優先させるかもしれないからこそ、「今、家族で楽しい時間を過ごす」のが大事だと考えている。
「忙しいけど不満はない。夫のことは信頼していました」
そんなサチさんにとってショックなできごとが昨年暮れに判明した。
夫に義両親の月2万の借金援助を頼まれた
娘が生まれたころだった。夫から「うちの親を助けてほしい」と深刻な表情で頼まれた。当時、夫の親は60代後半だった。離れて住んでいることもあって夫の実家の細かい事情まではよく知らなかったが、「父親がだまされて借金を背負い、あげく体調を崩した」という話だった。実際、1度だけ義父の入院先に見舞いに行ったこともある。
「夫は月に2万出してくれないかと。夫もお金を出して、月5万、両親に送ってやりたいと言うんです。義両親は長年続けていた商店を閉店させ、年金も少なくて生活のめどがたたない。夫は一人っ子なので、助けてくれる兄弟もいない。あまり裕福でない中、オレを大学まで行かせてくれた両親を助けてやりたいんだと。そこまで言われたら、知らん顔もできなかった」
以来、サチさんは給料のたびに夫に2万円を預けてきた。義両親からはお礼の手紙ももらったことがある。
「昨年暮れに義父が亡くなったんです。当然、お通夜やお葬式に行くはずだったんですが、娘がインフルエンザにかかって行けなくなった。夫はすぐに飛んでいきました」
その後、義母に電話をかけてお悔やみを言った。さらに数日後、今度は義母から電話がかかってきたのだが、何やら話が通じない。
「お金がどうのこうのと言うので、私たちが毎月援助しているお金のことかと思ったら、『息子にもお金を貸しているし』と言う。何が何だか分かりませんでした。すると親戚の人が電話を代わって、夫が母親や親戚からお金を借りていると。そんなはずはない、うちからは毎月5万、義母に援助していると言ったら大騒ぎになりまして……」
いつからだましていた? 夫のうそが判明
帰宅した夫を問い詰めると、両親がお金に困っているというのはまったくのうそで、サチさんからの2万円は夫がずっとくすねていたという。しかも両親や親戚への借金も本当で、夫は長年、キャバクラやギャンブルにはまっていたのだ。「貯金もまったくないんですよ。いろいろ聞いていったら、夫は職場ではまじめでやり手として通っている。うちでもいいパパだし、私にも常に冷静に話し合いをしてくれるいい夫。でもひとたび職場と家庭を離れると、完全に人が変わってしまうみたいで」
夫は「職場でも家でも妙なプレッシャーがあって、自分を保つにはキャバクラやギャンブルが不可欠だった」と涙ながらに語ったという。そんな夫の気持ちを、サチさんはとても理解することはできなかった。
「離婚したいと思いました。娘と2人で生きていきたいと。だけど娘はパパが大好きだし、夫も娘と離れるくらいなら死んだほうがマシだと不穏なことを言う。人生、リセットしないとこの先に進めないよと話して、依存症治療をすることになったんです」
夫は現在、休職している。当然ながら家計は苦しくなっていく。長年にわたってだまされていたサチさんは、どうしてこんな目にあっているのか、とても気持ちが整理できる状況ではないと言った。
「どこでどういう判断を下すべきなのか、この状況でも私は夫を見捨ててはいけないのか、そもそも夫はなぜそんなに長い時間、私をだましてきたのか。なにも分からない。今は夫が進んで家事をしているので、娘の私立学童の回数を減らしています。あとは家のローンを返しながらどこまで生活できるか……先が見えないんですよね」
急に判明した夫の“私生活”に、サチさんは対応できないままだとうつむいた。