今の時代、黙っていない「嫁」
昔だったら義母から何か言われたりされたりしても逆らえなかったのが「嫁」の立場。だが今の時代、黙って我慢している嫁は多くはなさそうだ。「結婚して10年ほどたったころ、義父が急逝。義母は1人では暮らせないと息子である私の夫に泣きついてきた。もともと義母は夫の妹を溺愛していたので、義妹の家に行けばいいと思っていたら、義妹は『うちは子どもが多いから無理』とあっさり拒絶。義妹は母親が思うほど、母親を好きではなかったようです」
そんな経緯から、義母を引き取ることになってしまったとマユミさん(45歳)は言う。それが3年前のこと。マユミさんと夫は共働きで、同居当時、一人娘は9歳だった。娘が入学した時に、夫婦は共同名義でマンションを購入している。
義母と暮らすようになって
「つまりは2人で働かないとローンが払えないということです。義母は当初、『孫娘の面倒を見る、夕飯の支度もできる限りする。もちろん年金から食費も払うから同居してください』と泣きながら頭を下げた。そこまでされたらこっちだって折れますよね。娘が下校してから1人で留守番しなくていいのもありがたかった」ところが義母がその言い分通りにしたのは最初の数カ月だった。そのうち昼間は地元のサークルに行ってみたいと言い出すようになった。それ自体はマユミさんも大歓迎だった。暮らしていくなら地元に友達がいた方がいいに決まっている。娘は基本的に学童があるから大丈夫、安心して仲間を作ってきてと義母に言った。
「そこからはもうグダグダでした。サークルで知り合った友達を家に連れて来て、夜、私が帰宅してもまだリビングで宴会をやっている。昼間からお酒を飲んで大騒ぎしていたみたい。こういうことはやめてくれと夫からきつく言ってもらいました。夕飯の準備なんてほとんどしてくれたこともない」
挙げ句、「私、外で食べることが多いから、食費は1万で十分でしょ」と言う始末。それでも義母がいないと食卓は以前のように親子3人で囲めるし、雰囲気も穏やかだった。寝に帰ってくる人だと思えばいいとマユミさんは気持ちを切り替えた。
いつしか夫婦の寝室がターゲットに
一触即発の雰囲気を抱えながらも、なんとかぶつからずに生活してきたのだが、半年ほど前、義母は転んで足首を傷めた。骨折はしなかったが重い捻挫といったところだったという。「毎日、友達に連絡しては来てもらおうとしていたけど、以前のこともあるし、さすがに2週間もすると誰も来なくなった。杖を使えば自分で歩けるようにはなっていたので、義母が暇つぶしに始めたのは、私たち夫婦の寝室をあさること。おかしいなと思ったのは、ベッドサイドのテーブルに飾っていた写真の位置が変わっていたから。人が部屋に入ると分かりますよね」
ドアに鍵をかけようかと思ったが、ことを荒立てるのも嫌だったので、とりあえずは静観することにした。
「でもその後、私のアクセサリーがなくなったり、引き出しの中に入れていた夫からもらった手紙がどうやら読まれたりしていたみたいで。夫に話したら、夫も頭を抱えていました」
娘の部屋にも入ったようで、日記を盗み見られたと娘が泣きながら抗議してきた。子どもであってもプライバシーはある。夫から夫婦の部屋、娘の部屋には入らないでほしいと伝えてもらったが、義母は「掃除してあげただけなのに」と言い捨てたという。
もう黙ってはいられない
「それからも少し様子は見ていましたが、私の下着や実母からもらった指輪がなくなったりすることが続いて。監視カメラをつけたら、義母が部屋に入って私のクローゼットやタンスの引き出しをあさっているのが映っていました。もう黙ってはいられなかった」夫婦で義母にその映像を見せ、「母からの指輪を返してくれないなら警察に訴える」と迫ったところ、指輪だけは「あら、ちょっと借りようと思っただけ」と返してきたそうだ。
「結局、娘と私たちの部屋に、それぞれ鍵をつけました。リビングのチェストも、いくつかの引き出しには鍵をつけた。義母も嫌だったかもしれないけど、部屋をあさられた私たちはもっと嫌な思いをした。娘はそれきり義母と口をきかなくなりました」
義母を追いつめたつもりはなかったが、彼女が歩み寄ってこないと家族としては認められないとマユミさんは思っていた。
足もすっかり治った義母は、今も昼間から夜まで出歩いているようだ。最近は近所の人たちに「うちの嫁は鍵を変えて、うちに入れてくれない」と嘘を吹聴しているとか。
「誰もが忙しい世の中ですから、そんな戯言を信じる人もいないみたいで助かっていますけどね。義母とどうやってうまく暮らしていこうとは考えなくなりました。むしろどこの施設に入ってもらおうかという感じです。私は幸せになりたくて結婚したんです。義母に私の幸せを邪魔されたくない。つくづくそう思いますが、ふっと私は冷たすぎるんだろうかと思うこともあって……」
心に重石を抱えながら生きている気がすると、マユミさんは沈んだ声で言った。