夫が料理をするときは
「家族になって15年、夫は悪い人ではないと思います。共働きなので私の仕事が忙しい時期には、それなりにフォローもしてくれる。実家の母などは夫のファンです。ただ、結婚生活が長くなるにつれ、特に食に関してはおかしいなと思うことが増えました」苦笑いするルリさん(45歳)。中学生の息子と小学生の娘がいる。夫婦は基本的に週末が休みなのだが、ルリさんは下の子が小学校に入ってから異動になり、時々休日出勤せざるを得なくなった。
「夫は『いいよ。オレが夕飯作っておくから』と言ってくれる。だけど夫はとにかく作りすぎるんですよ。だからメニューを聞いて、それだったらキャベツは4分の1とかナスは2本でいいからとか、だいたいのことを伝えていくんです。でも帰ってくると、キャベツは半分なくなっているし、ナスは1袋使い切っている。どうしてそうなるのかなといつも思うんですよね」
初めて作るわけではない。家族4人の食べる量もだいたい把握しているはず。それなのにどうして、とルリさんはがっかりする。しかも品数もかなり多い。保存しておけるものならいいが、夫は常備菜を作ったわけではない、今日中に食べようと言い張る。
好きなものを好きなだけ作りたい
「オレ、おかずの品数が少ないのが嫌なんだよねと言うんです。それは普段料理を作る私への当てつけなのかと思ったけど、そういうつもりで言っているわけでもないらしい。自分が作る時くらい、好きなものを好きなだけ作りたいということみたい。でも、家計というものがあるんですよね」たとえ共働きでも、ルリさん夫婦は決して世帯収入が多いわけではない。ルリさんの両親の年金が少なく、毎月援助しなければならないこともあって子ども達の将来も心配なのだという。だからこそある程度、倹約して貯金も増やしたい。子どもにはしっかり栄養をとらせたいが、「私たちは栄養過多になるとかえって生活習慣病になりやすいでしょ」と夫を説得しようとしたこともある。実際、夫は糖尿病予備軍なのだから。
だが夫は肉が大好きで、週に4、5日は肉を食べたいという。鶏肉にするとがっかりしており、その顔を見るのが忍びなくて、ルリさんもつい肉を買ってしまう。
味見をしていたら食べすぎた
4人家族なのに7人分くらい作る夫。そして、作ったはいいものの食卓に並ぶ時には料理がやけに減っていることもある。「年末だったか、私が仕事で出かけている時に『ローストビーフを作る』と子ども達に約束したらしいんです。子どもたちはワクワクしながら待っていた。私自身がローストビーフを作ろうと思って、500gの牛肉の塊を買っておいた。夫は黙ってそれを使って作った。そこまではいいんですが、味見しようと食べたら、あまりにおいしくて半分くらい食べてしまった、と。私が帰宅したときは半分どころじゃない、3分の1くらいしか残っていませんでした」
それをルリさんと子どもたちとで分けたのだという。夫の感覚はどこかおかしいとルリさんは言う。
「子ども達がかわいそうだったから、今度、あなたが肉を買ってきて子どもたちにもう一度、作ってあげてよと言ったら、もうローストビーフは当分、いいやって。親としておかしいでしょと、さすがにこのときはケンカになりましたが、あまり罪悪感は覚えていないんですよね」
夫の手料理から感じる夫の本心
それでも最近、ルリさんは少し感じるところがあるという。実は夫は家庭をもっていることに内心、イラついているのではないかと。表面上、家族を大事にしているように見せているが、実際に本当に困った時に夫はまったく頼りにならないし、料理ひとつとっても家族のことを考えているわけではない。自分の食べたいものを食べたいだけ作って、自分だけ大量に食べてしまうのだから。「揉めるのは嫌いなんですよ、夫は。だから平和なフリをしている。でも夫にとって、家族はそれほど優先順位が高くない。私が仕事でなければ、夫は週末もすぐ1人で出かけてしまう。いい父親のように見せているけど、実際、子ども達を連れてどこかに遊びに行ったりはしない。その妙なカラクリに、結婚して15年たってようやく気づいたんです」
モラハラというほどのことではないが、どこか家族を無視した行動が目につくようにもなっている。それは夫が家族とともに生きていこうという覚悟ができていないからかもしれない。
「結婚して子どもができて、でも夫は心のどこかで独身生活に戻りたい気持ちがあるのかなあと思うこともあります。それでも日常生活を崩すわけにはいかないんですよね、子どもが大きくなるまでは」
夫の心の深いところには触れないまま、ルリさんは日常生活を滞りなく過ごすことだけを考えるつもりでいる。夫の「食への偏った行動」がいつかおさまることを信じたいと小声でつけ加えた。