
年齢と共に聞こえる音が変わるのは当然のこと? そのしくみとは
「音」は、空気の振動によって生じる「音波」の一種です。波の振幅と周波数によって、どのような音かが決まります。音波の「振幅」は「音の大きさ」に、音波の「周波数」は「音の高低」に反映されます。具体的には、周波数値が大きくなるほど、音は高く聞こえます。
自分の耳が聞き取れる音の周波数域は、人間ドックや健康診断にも含まれる聴力検査で知ることができます。ネット上にも「耳年齢チェック」などの動画が複数あるようです。医療機関で受ける検査ほど正確ではありませんが、興味があるかたは試してみてもいいでしょう。
筆者自身も、年始に集まった親戚と、余興の1つとして試してみたところ、見事に「年をとっている人ほど、高い周波数の音が聞き取りにくい」ということが分かりました。これは、加齢によって、難聴などの耳の不調や、脳の不調が起きたというわけではありません。あくまでも年相応の自然な傾向なので、あまり気にすることはありません。
モスキート音とは……非常に高い周波数の音域。ときには「若者対策」にも
一方で、「モスキート音」という、若い人(主に10代)にしか聞こえないといわれる音域があります。モスキート音は、1万7000ヘルツ前後の非常に高い周波数の音です。「モスキート」とは「蚊」のことで、蚊の羽音のような高音という意味でこう名付けられています。しかし実は蚊の羽音の周波数は500ヘルツ程度ですので、この命名は適格ではないと筆者は思っています。実際、夜寝ているときに耳元でプ~ンという蚊の羽音がして、眠れないといった経験は、年齢を重ねてからもあるものです。ちなみに現在の筆者は、1万7000ヘルツ前後の音は全く聞こえませんのでモスキート音が分かりませんが、聞こえる年齢の子どもによると、「キーンという耳鳴りのような音」で、不快感を覚えるそうです。ですので、聞こえるからと言って、必ずしも幸せなこととも言えません。最近では、コンビニや集合施設などの入り口付近にこのモスキート音を流し、若者が駐車場などでたむろしないような対策をとっているところもあると聞きます。
年齢によって「聞こえる音」が変わるのは、「耳のつくり」のため
それでは、なぜ年齢によって聞こえる音に違いがあるのか、科学的に解説してみましょう。先に答えを明かしてしまうと、「音を聞き取る耳のつくり」が関係しているのです。空気の振動波である音が耳に届くと、耳の穴の奥にある鼓膜が震えます。鼓膜のさらに奥(中耳)には、ツチ骨、キヌタ骨、アブミ骨という3種類の小さな骨があります。これら3つを、合わせて「耳小骨」とも呼びます。これらの骨が順番に振動を伝えていくことで、鼓膜が捉えた機械的な動きをさらに増幅します。
第三の耳小骨であるアブミ骨は、耳のさらに奥(内耳)にある「蝸牛(かぎゅう)」という構造につながっており、蝸牛内に満たされたリンパ液に振動が伝わります。空気の振動が水の振動に置き換えられるわけです。蝸牛の中には、「有毛細胞」という、まさにその名の通りたくさんの毛がついた細胞がたくさん並んでおり、リンパ液の振動に応答します。具体的には、有毛細胞の毛の上には、「蓋膜(がいまく)」と呼ばれる構造体が乗っており、リンパ液の揺れに合わせて、有毛細胞の毛と蓋膜が擦り合わされて動くようになっています。
最終的には、毛の動きが電気信号に変換されて、聴神経から脳の聴覚野へと信号が伝わり、私たちが音を知覚するというわけです。健康な人にとっては「音を聞く」のは簡単なことに思われますが、このように非常に複雑なプロセスを経て、ようやく音が捉えられているのです。
さらに面白いことに、蝸牛内の場所によってどの周波数に応答するかが決まっています。「蝸牛」は、もともと「カタツムリ」のことです。その名の通り、耳の中の蝸牛はカタツムリの殻のようなぐるぐるの渦巻き状の形をしていますので、カタツムリの殻を想像しながら説明を読んでください。
蝸牛の中にはリンパ液が満たされていて、入口側から奥側に向かって振動が伝わるわけですが、入り口側で高音域、奥側で低音域の信号が受け取られるようになっています。要するに、蝸牛の中にある有毛細胞は、それぞれがどの音域の音に反応するかの「住み分け」がされているのです。
さて、ここで問題です。低音に反応する有毛細胞と高音に反応する有毛細胞では、どちらが長持ちするでしょうか。歯ブラシで歯をみがくときを想像してみてください。ゆっくりと歯をこすったときよりも、シャカシャカとすばやくこすったときの方が、歯ブラシの毛はすり減りやすいですね。それと同じです。蝸牛の入り口側に分布している有毛細胞は、高音域の信号がやってくると、非常に速い速度で蓋膜と擦り合わされて毛が動きます。これを長い間繰り返すとどうでしょう。そう、毛がすり減ってしまいますね。有毛細胞の毛は、一度失われてしまうと元に戻りません。ですから、年を取ると、高周波の音ほど聞こえにくくなるのです。モスキート音は、人間が聞き取れる音域のうちでも特に高周波なので、30~40代でも聞こえなくなる人が多いです。
なお、年を取ると聞こえにくくなるのは、高音域だけとは限りません。例えば電車の中でイヤホンをして大音量で音楽を聴くなどの習慣をつづけていると、音全体が聞こえにくくなる「難聴」になってしまうこともあります。場合によっては、それが将来「認知症」につながることもあります。そうならないためには、日頃から騒音を避けて、耳の毛をいたわるようにしましょう。
■関連記事