今のアルバイトも60歳で辞めたいと思っております
皆さんから寄せられた家計の悩みにお答えする、その名も「マネープランクリニック」。今回のご相談者は58歳、パートで働いていたものの体を壊し休職中です。母親の年金で暮らしており、老後の生活をやっていけるかを心配しています。ファイナンシャル・プランナーの深野康彦さんがアドバイスします。このままパート収入がない場合、老後の生活はやっていける?
それゆけカッチンさん
女性/パート・アルバイト/58歳
愛知県/持ち家(一戸建て)
■家族構成
母親(90歳)
■相談内容
今現在、母と自分の預貯金は合わせて6000万円前後です。22歳の時に病気になり、パート勤めで30年。アルバイトで月3万円ちょっとの収入のため、母の年金で生活しております(現在体調を崩して休職中のため収入はなしです。今後働けるかは未定です)。今のアルバイトも60歳で辞めたいと思っております。
65歳までは生活費18万円ぐらいで65歳からは生活費は月17万円ぐらいとみて、65歳からの年金受給予想額は月8万4000円ぐらいですが、税金など引かれるので、月7万円くらいでみておきます。
現在の資産6000万円のうち1000万円は生活防衛費として(車購入、医療費、介護費など)でとっておきたいので、残りの資産約5000万円と年金だけで老後を安心して暮らせていけるかとても心配です。株や投資はやる気はありません。
■家計収支データ ■家計収支データの補足
(1)母親の年金、金融資産について
2カ月に一度の母親の公的年金が平均で約33万円。母の預貯金額は現在3000万円、自分の預貯金は合わせて2900万円ぐらいで、合計5900万円ぐらいになりました。
(2)生活費について
家計収支データ合計8万2600円には2人分の生活費を計上。その他に自分の生活費がかかっています。
<自分の生活費>
ガソリン代6000円
小遣い2万円
予備費1万2000円
合計3万8000円は自分の預貯金から切り崩しています。小遣い2万円は多めに考えています。
(3)年間でかかるお金
1年単位で必要なお金が、固定資産税(約5万円)、村の維持費、お寺の檀家費など、雑費含めて合計が28万9100円ぐらい。うち、通院のための医療費3万2000円ぐらい、車検・自動車保険など約12万円。母の通院・医療費は母の預貯金より引き落とされています。車に関してのガソリン代、車検費、維持費、購入など車にかかる費用も、自分の今ある預貯金を切り崩しています。
(4)自動車について
自動車の購入は来年に新車を200万円前後で購入予定です。
(5)その他の出費予定
今後にかかる生活防衛費は当初1000万円とみていましたが、医療費、介護費、車購入代200万円×2回分、葬式代などを考えると1300万円ぐらいに引き上げました。
あとは不定期の生活必需品、交際費、娯楽費、免許の書き換え費、タイヤ交換、タイヤの購入などやリフォーム代や除雪機、耕運機などの修理や購入費は生活防衛費に含めていませんので、この分のお金が別に必要となります。
家の維持費と生活費は母の預貯金である約3000万円を切り崩していて、自分のことに使う分に関してだけ、自分の預貯金を切り崩しています。
(6)今後の生活について
高齢の母は、今のところ介護することはほとんどなく、もし、デイサービスや施設を利用する場合は、母の年金を使うつもりです。母の後期高齢者医療保険料と介護保険料は不明。
ただ今休職中で自分の収入はなし、今後働けたとしても収入はほとんど見込めないため、最悪、今現在58歳から年金をもらう予定の65歳までは収入なしと考えたいと思っています。
相続に関しては、兄が1人おりますが、まだ話し合いはしていません。母は、兄とその子(1人)に金額ははっきり言いませんが、少し分けてやってくれと言っています。私が母の面倒を見ているのと、兄たち家族も自立できる生活費はあるので、たぶん私が相続を受け継ぐとは思います。
■FP深野康彦の3つのアドバイス
アドバイス1 母親の資産を全て相続するなら、早めにきょうだいで相談すること
アドバイス2 全てを相続したとしても、生活コストを抑えないと、生涯安泰ではない
アドバイス3 遺留分によっても相続財産の金額は変わる。兄の気持ちも確認しておくこと
アドバイス1 母親の資産を全て相続するなら、早めにきょうだいで相談すること
少々厳しいアドバイスになることを最初に述べておきます。マネープランのアドバイスをする前に、相続について確認しておく必要があります。現在居住の持ち家、母親の金融資産の全てをご相談者が相続するには、母親の遺言が必要です。遺言がない場合、法律上は、母親の資産は、兄と2分の1ずつ相続することになります。
持ち家も財産として半分は兄が相続する権利があります。持ち家の相続財産としての評価額がどのくらいかにもよりますが、仮に400万円とすると、母親からの相続財産総額は3400万円です。これを兄と二分するので1700万円ですが、持ち家をご相談者が相続するとなれば、その評価分400万円を差し引き、金融資産1300万円がご相談者、兄は2100万円という案分になります。
今の段階でご相談者が持ち家、母親の資産を全て相続できるか確定されていませんので、アドバイスとしては、いくつかのパターンで述べていきます。
母親も、兄やその子どもにいくばくかは遺したいという意思がおありのようなので、一度、お兄さんと一緒に話し合いをもたれることを強くおすすめします。
アドバイス2 全てを相続したとしても、生活コストを抑えないと、生涯安泰ではない
仮に、持ち家、金融資産をご相談者が全て相続したとします。基本的には、今の生活水準と変化はないと思われます。2人分の生活費とご相談者の支払い分を合計すると12万円ほどで、これが続けられたらいいと思います。しかしながら、今後毎月17万~18万円を見込んでおられるので、年間での支出は204万円、まとまって出て行くお金が30万円ほどあるようなので、年間234万円の支出とします。年間234万円の支出で、ご相談者65歳までの7年間で1638万円を金融資産5900万円から差し引くと、4262万円です。65歳から公的年金が手取り84万円とすると生活費の不足は150万円。4262万円から取り崩していき、底をつくのは28年後、ご相談者93歳の時、となります。
次に、法的に兄と二分した場合を考えてみます。先に述べたとおり、持ち家の評価分をどうするかですが相続評価額はそれほど高くなく、金融資産のみの案分として、ご相談者は持ち家と1500万円を相続したとします。
ご自身の金融資産と合わせて4400万円です。年間の支出は同じく234万円で65歳までに1638万円を使うと残りは2762万円。65歳からの不足分も同じく150万円とすると、18年、83歳で金融資産はゼロになります。
この中に、車の買い換えや葬儀費用、持ち家の修繕費などは含まれていません。このように全部相続したとしても生涯安泰というわけではなく、できるだけ支出を抑え、毎月15万円程度に収めるなどの工夫が必要になってきます。アドバイス1で述べたように、母親がしっかりしているうちに、相続についてはきちんと話し合いをすることが何よりも大事です。
アドバイス3 遺留分によっても相続財産の金額は変わる。兄の気持ちも確認しておくこと
遺言によって、全てをご相談者が相続するとなっていたとしても、遺留分という制度があり、法定相続人が意義申し立てをすると、本来受け取るはずだった相続分の2分の1は受け渡さないといけせん。つまり、1500万円の2分の1、750万円は兄が遺留分として受け取ることになります。この金額は、年間生活費の不足額の5年分に当たります。そうなると金融資産はいずれのケースでも88歳まで、ということになります。かなり厳しいアドバイスになったと思いますが、相続の仕方、金額によってもその後の生活は変わりますので、税務の専門家にご相談なさってもいいと思います。何よりもお兄さんの気持ちも確認しておくことです。
少しでも働いて収入が得られればいいのですが、それが無理であれば、どのようなケースであっても生活コストを抑えること、車の買い換えも中古など予算を抑えるなど、考えておく必要があるでしょう。
厳しいアドバイスになりましたが、ご自身の今後の生活がかかっていることですから、しっかりと準備をなさってください。
相談者「それゆけカッチン」さんから寄せられた感想
相続の件ですが、もし全て自分が相続するとしても、安泰とはいかないことが分かりました。今後はもし働けたら少しでも収入を得ること、あとは生活費を節約しないといけないですね。自分の考えだとこれから働かなくても、正直余裕でやっていけるのではと思ってました。考えが浅はかでしたので、これから気を引き締めていかなければと思いました。ありがとうございました。※マネープランクリニックに相談したい方はコチラのリンクからご応募ください。(相談はすべて無料になります)
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教えてくれたのは……
深野 康彦さん
マネープランクリニックでもおなじみのベテランFPの1人。さまざまなメディアを通じて、家計管理の方法や投資の啓蒙などお金まわり全般に関する情報を発信しています。All About貯蓄・投資信託ガイドとしても活躍中。著作に『55歳からはじめる長い人生後半戦のお金の習慣』(明日香出版社)、『あなたの毎月分配型投資信託がいよいよ危ない!』(ダイヤモンド社)など
取材・文/伊藤加奈子