今回はJR名古屋駅から約10分のところにある「今池」をフィーチャー。名古屋在住の筆者が実際に今池を歩きながら、町の特徴や見どころ、楽しみ方などを詳しく紹介します!
<目次>
「味仙」「ピカイチ」など名物店も連なる個性派タウン
名古屋の中でとりわけディープな町といわれるのが「今池」です。もともと歓楽街として発展した町だけあって、大通りにパチンコ店、カラオケ店などアミューズメント系の施設が目立ち、さらに飲食店を中心に個性の強い店がズラリ。台湾ラーメン発祥の「味仙」の本店やドラゴンズファンに愛される中華料理店「ピカイチ」といった名物店、昼飲みや立ち飲みをはじめキャラの立った飲み屋が軒を連ね、ライブハウスやミニシアター、独特の品ぞろえの本屋などサブカルチャーの香りも漂います。
クセのある店が居並ぶカオスな雰囲気に魅せられ、どっぷりハマるファンも少なくないエリアなのです。
名古屋駅から地下鉄で約10分。若手の店や若いお客も増加中
ちょっとした異世界感すら感じられるエリアですが、交通アクセスはいたって良好です。名古屋駅からは地下鉄のメイン路線である東山線で6区間、11分。桜通線も通っているので市内の各方向からアクセスできます。夜の店が多いこともあって、かつては若者や女性にとっては“一人では近寄りにくいちょっと怖い町”というイメージもありましたが、近年は往年の雑多さは残しつつも、刺激的で何だか面白いと好意的に捉えられることも多くなってきました。
先のような名物店に加えて、若手店主らによる魅力的な飲食店もどんどん増えていて、そこへ集まる若者の姿も目立つようになっているのです。現在、高層マンションも建築中で、居住エリアとしての人気もますます高まりそうな気配です。
スーパーや生活密着型商店もあり生活圏としても便利
地下鉄今池駅は2つの路線が交差することもあって出口が12カ所もあり、ほぼ南北を通る環状線沿いに集中しています。この環状線を挟んで東西に飲食店などが密集するのが今池エリア。大通り沿いにはドンキ・ホーテやパチンコ店など大型の施設が目立ちます。飲み屋が多く盛り場のムードが色濃いため、一見生活臭があまり漂ってこないように感じますが、実際にはスーパーやクリーニング店、パン屋、弁当屋、八百屋といった生活に密着した古くから続く店もあり、なじめば安心感のある生活圏でもあります。
名古屋では貴重な昼飲みエリアも
地下鉄を降り、7番出口から町の要衝である今池交差点前に出ると、3頭の馬の像が。今池という地名は、江戸時代から馬を洗うための池がこの地にあり、「馬池」がいつしか「今池」になったと伝えられます。そんな地名の由来を伝えてくれる馬たちが出迎えてくれるのです。名古屋では珍しく、昼から飲める店が多いのも今池ならではです。特に地下鉄7番出口から出て東側には細い通りが交差し、この一帯は昼からのれんを掲げる小規模の居酒屋が何軒も見つかります。 ただし、いきなり飲んでしまったら町歩きがおぼつかなくなってしまうので、ここはグッと我満。誘惑だらけの町のムードを楽しみ、次回飲みに来たい店に目星をつけながらしばし散策します。
カツはさっぱり、味噌は濃厚!絶品「焼とんかつ」
飲みの誘惑に打ち勝つにはパンチのある味噌カツ!と入ったのは「焼とんかつ たいら」。焼とんかつとは、揚げるのではなくフライパンで焼くカツ。もちろん味噌カツにできるので迷わずそちらを選択します。豚スジを形がなくなるまで煮込んだ味噌ダレが別皿で添えてあり、これをカツに付けながら食べるというスタイル。油が少なくさっぱりしたカツにこってり濃厚な味噌ダレがよく合います。
「焼とんかつはうちの先代が考案。先代も僕も洋食出身で、味噌ダレはソースをつくる感覚で仕込んでいます」と店主のマサキングさん。カウンターと小上がりのこぢんまりした店ですが、見れば壁にギターが何本も。マサキングさんは音楽活動もしていて、店でも頻繁にライブイベントを開催しているそう。トンカツ店兼ライブハウスとはさすがカオスな町、今池です!
ミニシアター、独立系書店、喫茶にあんドーナツ
ミニシアターの「ナゴヤキネマ・ノイ」、哲学や歴史など人文系の書籍が充実している「ウニタ書店」の存在も、サブカルチャーの町・今池らしさの一端を担っています。 気になる上演作品と出会えれば映画鑑賞、本が見つかれば近くのカフェでしばし読みふけるのもよさそう。周辺では名古屋の老舗喫茶「コンパル」の今池店、若者に大人気のグランド喫茶「シヤチル」、そして「コメダ珈琲店」がおすすめです。 また日中、一番にぎわいを見せているのが「中屋パン」。とりわけあんドーナツは一日に800個も売れるという大人気商品。常時揚げたてが店頭に並び、ほんのり温かさが残るうちに頬張ると、あんこの甘みもより深く感じられます。
個性派店主の店その1:ドラゴンズファンの聖地、中華料理「ピカイチ」
今池になじむには、個性派店主の店に足を運んでみるのも近道です。ドラゴンズファンの聖地とも呼ばれる中華料理店「ピカイチ」は、2代目の兵頭忠保さんがいつも満面の笑顔で出迎えてくれます。 「ドラゴンズファンじゃないと浮いてしまうんじゃ……?」なんて心配はご無用。「バンテリンドーム ナゴヤで試合があるのは年間60試合程度の上、うちは日曜日が定休日なので、野球がない日にいかにお客さんに満足してもらうかが大事なんです」と兵頭さん。ドームからはタクシーで10分ほど。ドラゴンズが勝利したときにはテンションの高いファンが押し寄せますが、それ以外のときはわいわいがやがや、ほどよくにぎやかといった感じ。
しかも兵頭さんファミリーを中心に家族で切り盛りするお店なので、アットホームで子ども連れでも利用しやすいのです。加えて料理も決して脂っこくはなく、家庭的かつ優しい味わい。純粋に中華料理店としておいしいので、半世紀以上にわたって地元で愛されているのです。
個性派店主の店その2:今池プロレス王者の居酒屋「きも善」
「きも善」は、プロレスラーの店主が焼き鳥を焼いてくれるという居酒屋。ケンさんこと2代目大将の田中兼二さんのもう1つの顔は、今池プロレス絶対王者・マグナム今池。今池プロレスは商店街が所有する全国でも他にないプロレス団体で、ケンさんはその代表でありチャンピオンなのです。きも善は1960年創業の老舗で、炭火の香ばしい焼き鳥をはじめ、多彩なメニューと飾らない雰囲気で客足が絶えない人気店。一見コワモテですが実は優しいケンさんにお近づきになれば、今池を堂々と闊歩(かっぽ)する後ろ盾を得たような心強さを感じられる、かもしれません。 そして、この店のもう1つの人気商品が「今池ハードコア」Tシャツ。町のあちこちでポスターも見かける「今池ハードコア」とは“筋金入りの今池ファン”の意味。今池界わいではTシャツの着用率も高く、これを着ていれば初めて入る店でもすぐになじめること請け合いです(筆者も早速2025年バージョンをゲットしました!)。
個性派店主の店その3:料理もうまいライブハウス「得三」
「得三」のオーナー・森田裕さん。今池まつり実行委員長を務める町の顔役でもある。得三はスタンディングで最大200名、通常はテーブルを並べて飲食しながら音楽を聞くスタイルで着席式だと最大100名。キャパは大きくないが国内外の名だたるアーティストが出演する
また、イベントが終わった後の夜10時頃から“朝までやっている飲み屋”となり、しかも料理のクオリティーも高いのです。この店のオーナーであり、バンドマンでもあり、さらに商店街のまとめ役でもある森田さんに、今池という町の魅力を改めて聞いてみます。
「アウトローに優しい町、かな。俺よりも上の世代の人たち(森田さんは67歳)にもメジャーなものとか常識に対する反骨心みたいな気質が残っているんだよね。俺は10代の頃から今池に入り浸って、そのうちにここに居着いちゃったんだけど、そんなよそから来たはみだし者も受け入れてくれる。1989年に始まった今池まつりも、もともと地元出身じゃない連中が、地元の人たちを誘って一緒に始めて、それが今じゃあ今池中が一つにまとまる祭りになっているからね」
今池の雑多な魅力を象徴する「今池まつり」
個性的かつ魅力的な店へ行き、今池という町に魅せられたら、ぜひ足を運んでもらいたいのが、森田さんの話にも出てきた今池まつりです。 開催は例年9月中旬。2024年で第34回と比較的新しい祭りですが、これが路上ライブありプロレスありリング上結婚式ありフリマあり大道芸ありの、まさに今池らしい混沌たる熱気が町の至る所で炸裂する催しなのです。町のイメージが「ちょっと怖い町」から「カオスで面白い町」へと変わったのもこのまつりがあったからこそ。近年増えている新しい店の中には、まつりに遊びに来たのをきっかけに、次は商店街の一員としてまつりに参加したいと、この地で出店するケースも少なくないといいます。 今池まつりをより楽しむことを目標に普段からいろんな店に顔を出す、今池まつりをきっかけに繰り返し食べ歩き、飲み歩きを楽しむ。順番はどちらでも構わないので、このエリアをより深く知り、楽しみ、愛するには今池まつりは欠かせません。これを一つの目標や節目として、今池ハードコアの一員になってみてはいかがでしょうか?