Q. 「自由診療」は高額な分、標準治療よりも効果が優れているのでしょうか?

【薬学部教授が回答】「自由診療は高額な分、保険でまかなわれる標準治療よりも優れていて、効果が高い」と思っていませんか? これは大きな誤りです。分かりやすく解説します。

阿部 和穂

執筆者:阿部 和穂

脳科学・医薬ガイド

Q. 「自由診療」は高額な分、「標準治療」より効果が優れているのでしょうか?

医療とお金

高額な分、効果も高い? 自由診療は標準治療よりも優れているのでしょうか?


Q. 「『自由診療』の治療や薬はとても高額なものが多いと感じます。やはり値段に比例して、高額なもののほうが、『標準治療』よりも効果が期待できるのでしょうか? 母ががんになってしまったのですが、父は標準治療だけでは不安だと、高額な自由診療をいろいろと試そうとしています。もちろん、治療効果が高いものを選びたいですが、経済的な余裕があるわけでもないので、治療にどれくらいのお金がかかるのか不安です」
 

A. 「高額な自由診療ほど効果も高い」と考えるのは、大きな誤解です

経済的に余裕がありそうな著名人が、高額な「自由診療」を受けたといった話から、「お金がある人は、特別な治療が受けられて羨ましい」などと考える方がいらっしゃるようですが、それは大きな誤解です。

そもそも「自由診療」とは、国が承認した「保険診療」(いわゆる「標準治療」)として扱われない医療技術や薬による治療です。「保険診療(標準治療)」よりも優れていることを意味するものではありません。言い方を変えれば、「国は推奨していない治療法だが、患者が自己責任で受ける分には否定しない(自由は認める)」とされている治療法に過ぎません。

がん治療においては、最先端の未承認の抗がん剤を使用する場合などに自由診療を選ぶ方もいます。しかし未承認の薬は、有効性や安全性などが公的に確認されていません。予期しない有害作用によって、不利益をこうむるリスクもあるのです。わらにもすがる思いで、新しい治療法を選びたいという患者さんやご家族の「自由」は認められていますが、何か起きてもすべて自己責任となることは知っておくべきです。

「保険診療」においては、高額療養費制度があります。そのため、高度な医療を受けても、一定額以上は自分で負担しなくても済みますが、「自由診療」に対しては高額療養費制度は適用されません。かかった費用がどれだけ高額でも、すべて自分で支払わなければなりません。

また、一連の治療中に「保険診療」と「自由診療」の両方が含まれる場合、「自由診療」の技術や薬が自己負担になるだけでなく、単独なら保険が適用される「保険診療」の部分についても認められなくなり全額自己負担になってしまう点にも、注意が必要です。

がん以外にも、保険適用外の「自由診療」と位置付けられているものは多くあります。例えば、美容整形手術、歯科治療におけるセラミックの差し歯、男性型脱毛症(AGA)や勃起不全(ED)の治療薬を使用する場合です。

これらは患者さん自身の見た目やQOLの希望を叶える上では役立ちますが、命にかかわるわけではない診療・治療とも言えます。公的保険から費用をまかなうことはできないので、治療費の全額を自己負担で支払う必要があります。

「自由診療」のメリットは、治療の選択肢が増え、自分に合うと思う治療を制限されずに受けられることです。一方のデメリットは、公的には有効性などが確認しきれておらず、保険適用外で、費用が全額自己負担となることです。不利益をこうむっても、公的な救済措置は何もない点は、十分に理解しておく必要があります。医療においては「安かろう、悪かろう」「高額なものほど質がいい」という短絡的な考えはせず、よく理解して、選択することが大切です。
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