子育て

絶対おかしい! 授業準備、テストの採点に「残業代が出ない」のはなぜ? 教員の“時間外労働”謎ルール

公立学校教員の長時間労働の要因は、残業に関する不合理なルールにあります。教員業務のなかでも残業として認められるものと認められないものの具体例をあげながら、その課題点を述べていきます。仕事を減らす仕組みづくり、教員のコスト意識が鍵と考えています。

坂田 聖一郎

執筆者:坂田 聖一郎

子育て・教育ガイド

「働かせ放題」が可能。公立学校における時間外労働の謎ルール

授業をする教員

不合理な教員の残業ルール

公立学校の教員には、時間単位の残業代が支払われません。この背景には、教員の仕事が自発性や創造性に基づくものだという考え方があります。

つまり、上司の命令に従って働けば成果が出るというものではなく、教員自身が生徒のために何をどうすればよいかを考えながら進めていくという特性があるのです。授業のような決まった時間以外の業務は、教員の自主的な取り組みと見なされるため、タイムカードで測れる仕事ではないと捉えられているのでしょう。

残業代や休日勤務手当を支給しない代わりに、教員には一般的な「教職調整額」という手当が支給されています。教職調整額は給与月額の4%に相当しますが、現在それを引き上げる案が出されているものの難航しているようです。

残業として認められる業務、認められない業務

教員の業務において、「残業として認められるもの」と「残業として認められないもの」のルールが存在します。残業を命じることができる業務は下記4つです。

<残業として認められる業務>
1. 校外実習その他生徒の実習に関する業務

教育課程の一環として行われる実習活動であり、教員が生徒を指導するための業務

2. 修学旅行その他学校の行事に関する業務
修学旅行や運動会、文化祭などの学校行事に関連する準備や運営に関する業務

3. 職員会議に関する業務
教職員が集まって行う会議。学校運営や教育方針に関する重要な議論が含まれます。

4. 非常災害時の業務
自然災害や緊急事態において、生徒や学校の安全を確保するために必要な業務。これには、避難指示や安全確認などが含まれます。

一方で、上記以外が残業として認められない業務になりますが、具体的には以下のようなものがあります。それぞれに対しての筆者が抱く疑問を述べていきます。

<残業として認められない業務>
1. 授業準備

授業は教員のメイン業務であり、質の高い授業をするには準備が必要です。特に新任の教員にとっては教材研究や授業計画の作成をせずに質の高い授業を行うことは難しく、準備なしで授業が成り立つわけがありません。授業準備は教育の根幹を支えるものであり、その労働が評価されないのは正直いって大きな問題です。

2. 部活動の指導
部活動は地域移行が進められていますが、現状はまだまだ教員が顧問を務めるのが一般的です。しかし、教員自身の意思に反して顧問を任されることも多く、特にそういった場合は、仕事以外の何物でもないはずです。

3. 保護者対応
保護者対応は、生徒と保護者、学校との信頼関係構築に大きく関わるものであり、時にはとても重要かつ迅速な対応が必要になります。実際には、先生が自主的に保護者に連絡するというよりも、保護者から求められるケース、もしくは先生が必要と感じたうえで実施することがほとんどです。このような状況での保護者対応が仕事でないとは考えにくいです。

4. テストの採点
自動化が進められているとはいえ、日々の小テストなども含めると30人以上の生徒の採点業務にはかなりの時間がかかります。生徒の学習に直結する、重要な仕事であることは間違いありません。

まずは業務削減が急務、教員のコスト意識も鍵

現在、教員の人手不足の解消に向けた処遇改善として、「教職調整額」を段階的に引き上げる案が出されていますが、筆者は手当を上げるよりもまず、仕事を減らすことが急務だと感じます。

近年、ブラック労働への社会的信頼の失墜などがあり、多くの民間企業が対策を講じています。勤務時間をきちんと管理し、残業代を支給することが基本となっており、残業が多い場合には、仕事を減らす措置を実施しています。

教育現場においても、まずは仕組み化が必要です。残業として認められない業務については、組織的に削減すべきです。同様に、教員に対しても、残業として認められない業務を見直して負担を軽減する必要があります。

そもそも残業として認められる業務、認められない業務の線引きについて、教員自身どれだけ把握しているのでしょうか。おそらくあまり知られていないのではと思います。そもそも時間単位で残業代が出ないため、教員のコスト・効率意識の欠如につながっているのではないでしょうか。

「教育調整額という形でまるっと支給するので、個人で業務時間を調節して仕事をしてね」という形だと、結局は個人に委ねられてしまいます。教員のほとんどは生徒のためを思って業務を抱え込み、すべてやろうとしてしまうため、長時間労働は解決しません。

筆者が実施しているコーチング塾には多くの教員が入塾していますが、子どもや授業は好きだが、教員としての働き方に疑問を感じるといった声をよく聞きます。筆者自身、公立学校の現場で12年教員をしていて、残業が月に200時間を超える働き方も経験し、学校現場を一教員の立場として変えるのは難しいと実感しました。現在は教育革命家として、外から働きかけることで学校教育を変える取り組みをしていますが、学校現場の仕組み化、現場に即した根本的な教員の処遇改善がなされることを心から願っております。

<参考>
教職員給与の在り方に関するワーキンググループ配付資料 > 教員の職務について(文部科学省) 
教員「残業代」巡り調整難航…財務省「働き方改革したら最大10%」、文科省「来年度から13%」(読売新聞)
  • 1
  • 2
  • 次のページへ

あわせて読みたい

あなたにオススメ

    表示について

    カテゴリー一覧

    All Aboutサービス・メディア

    All About公式SNS
    日々の生活や仕事を楽しむための情報を毎日お届けします。
    公式SNS一覧
    © All About, Inc. All rights reserved. 掲載の記事・写真・イラストなど、すべてのコンテンツの無断複写・転載・公衆送信等を禁じます